どうすれば日本を再興の道へと導けるのかを著名人に聞くシリーズ「再興ニッポン」。今回は日本酒「獺祭(だっさい)」を製造する旭酒造の桜井一宏社長。新型コロナウイルスによって飲食店への出荷は大きく減りましたが、余剰となった製造スペースや時間を若手社員の育成に活用。酒米を食用として販売したり、飲食店の従業員を一時的に引き受けたりして「サプライチェーン」の維持も図っています。15年前は従業員10人ほどの規模だった会社から日本有数の蔵元となり、2018年の西日本豪雨など危機を乗り越えてきた旭酒造。ピンチをチャンスに変える「逆境経営」の心得を聞きました。

桜井一宏[さくらい・かずひろ]氏 旭酒造社長。1976年山口県生まれ。早大社会科学部を卒業。都内のメーカー勤務を経て、2006年に旭酒造に入社。10年に副社長となり海外マーケティングを担当。16年に社長に就任した。4代目蔵元。
桜井一宏[さくらい・かずひろ]氏 旭酒造社長。1976年山口県生まれ。早大社会科学部を卒業。都内のメーカー勤務を経て、2006年に旭酒造に入社。10年に副社長となり海外マーケティングを担当。16年に社長に就任した。4代目蔵元。

長期化する新型コロナウイルスの感染は、飲食店の経営に壊滅的なダメージを与えています。インパクトをどのように見ていますか。

桜井一宏・旭酒造社長(以下、桜井氏):今の状況は飲食産業にとって明らかにピンチです。テークアウトや通販などに舵(かじ)を切っているところもありますが、リアル店舗での消費のような単価をとっていくのは難しいのが実情です。

 我々も含めてアルコール・飲食関連はこれまで変化がなかなか進まない業界でした。人に依存する部分が大きく、デジタル化が進みにくい。個人経営のお店が多く残っていることは素晴らしく、日本食の多様性を支えているのですが、効率化が進んでいなかったのも事実です。結果として、お客さんとの距離が開いていた面があるのではないでしょうか。

 今回、人の行動が大きく変わりました。大勢では飲み屋にいかなくなり、今年は忘年会も少なくなります。お酒を飲む単位が小さくなるという流れは明瞭で、対応しないと生き残れません。ですが、この変化を乗り越えれば、もがいた経験が次に生きる。残れたところは非常に強くなると考えています。

業績面への影響はいかがですか。

桜井氏:2月にまず、中国から注文のキャンセルが入りました。当時はまだ対岸の火事でしたが、3月になると国内も急落しました。3月の売上高は国内が前年同月比で57%、免税店が15%、海外が60%。4月からもう1段階落ち、国内が38%。全体でも4割以下の水準となり、資金の手当てを大急ぎで始めました。

 6月になってようやく改善し、月後半に国内の売り上げが8割まで回復しました。とはいえ、戻り切ってはいません。4~5月に、製造在庫が積み上がる可能性を考えて思い切りブレーキを踏んだためです。当社の酒造りには2カ月強かかるので、6月以降、お酒が足りない状況が続いています。

 海外向けの出荷は足元では伸びています。コロナ前の実績で海外は売上高の2割ほどでしたが、現状は約35%。7月の出荷額は前年比150%になりました。中国、台湾、香港などからの引き合いが強く、米国も復調しています。海外では飲食店向けが8~9割を占めるのですが、コロナの状況下で、パートナーである小売店の努力によって、ネット販売を増やしてくれました。そして、飲食店が戻ってきたことで、全体が伸びました。日本酒が海外でまだ浸透していないことが幸いし、結果的に、商流が広がりました。

もがきながら変化を探るチャンスに

厳しい状況が解決策を引き出している側面はありますね。

桜井氏:誰もが生き残るための道を必死で探し、大なり小なり手を打っています。言い方は悪いかもしれませんが、様々な実験の場になっている感じはします。我々にとって、状況の変化はチャンスです。

 3月以降にイベントのキャンセルが相次ぎ、今年1年の試飲会や販売会がほぼなくなりました。これは、本当に必要だったのか、どの形だったらよいのかを考えるきっかけになっています。流通面では、転売業者に流れていたお酒を追いかけるようにしています。数量が減ったことで経路の精査もしやすくなりました。店舗側が過剰に商品を取っていると思われる状況に鈍感になっていたのかもしれません。そういった部分を解決する下地も作れています。

 飲食店向けを専門にする業務用のある酒屋さんは、自前のトラックを使って周囲の住民にお酒を配達し、業績を伸ばしています。こういった動きができる酒屋さんがいることは大変心強い。それぞれが変わっている最中で何が正解かはわかりませんが、もがきながら変化を探る状況は大きなチャンスを生むと思います。

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