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新型コロナウイルスの猛威は、日本が抱える様々な課題や欠陥を明らかにしました。世界の秩序が変わろうとする中、どうすれば日本を再興の道へと導けるのか。シリーズ「再興ニッポン」では、ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長ら、企業トップや識者による意見・提言を発信していきます。今回は台北駐日経済文化代表処の謝長廷代表です。

 徹底的な水際作戦が功を奏し、新型コロナウイルス感染者を462人(7月27日時点)に抑え込んでいる台湾。IT(情報技術)を用いたマスク製造・販売の管理システムやフェイクニュース撃退法など、ユニークな防疫管理体制が注目を集めている。謝長廷・台北駐日経済文化代表処代表は、こうした施策を「民主主義だからこそなせる技」と話す。

謝長廷(しゃ・ちょうてい)氏
1946年生まれ。71年国立台湾大学法律学科卒業。大学在学中にトップの成績で弁護士試験に合格し、司法官試験も合格。76年京都大学法学博士課程修了。台湾に戻り弁護士となるが、政府の言論弾圧が問題となった美麗島事件の裁判の弁護を機に政界入りする。これまでに台北市議会議員、立法委員(国会議員)、高雄市長、民主進歩党主席、行政院長(首相)を務めた。2016年6月から現職(写真:陶山 勉、以下同)

新型コロナウイルスの感染拡大を抑えられているとして、世界中が「台湾モデル」と呼ばれる防疫体制に注目しています。

謝長廷代表(以下、謝氏):感染症の封じ込めには、患者とそうでない人を分ける、つまり隔離が必要です。それを確実に実行するには独裁国家の方が効率的なのではないかという見方がありますが、台湾の事例を見てお分かりの通り、民主主義体制でも感染症の封じ込めは可能です。そして、私が強調したいのは、台湾が今回、新型肺炎の被害を最小限に食い止めることができたのは、民主主義だからであるということです。

 民主主義と独裁主義の最大の違いは何か。 それは情報公開です。独裁体制では、政府に不都合な情報は報道もできず、隠蔽されます。民主主義の台湾では、行政院(日本の内閣に相当)直轄の中央流行感染症指揮センターが毎日、午後2時に記者会見を開き、感染状況を正確なデータを使って公開し、説明するとともに、メディアからのどんな質問にも一つ一つ懇切丁寧に答えました(台湾では2カ月以上、国内感染者が出ていないため、現在、会見は週1回のペースで実施されている)。

 民意に反する政策を実行しようとするとメディアを通して政府が厳しく批判されるので、担当者は毎日、緊張感を持って会見に臨みます。そして、そこでのやり取りを即座に政策に反映しようとします。

 こうした行政当局の姿勢があってこそ、台湾の住民も当局の政策に協力するようになりました。当局との適度な緊張関係が、適切な防疫体制の確立につながったのです。

防疫体制の確立には、17年前に台湾を襲ったSARS(重症急性呼吸器症候群)の経験がありました。