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新型コロナウイルスの猛威は、日本が抱える様々な課題や欠陥を明らかにしました。世界の秩序が変わろうとする中、どうすれば日本を再興の道へと導けるのか。シリーズ「再興ニッポン」では、ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長ら、企業トップや識者による意見・提言を発信していきます。今回はAI(人工知能)研究の第一人者として知られる東京大学大学院教授の松尾豊さんに話を聞きました。

松尾豊(まつお・ゆたか)氏
東京大学大学院教授。2002年東京大学大学院博士課程修了。工学博士。米スタンフォード大学客員研究員などを経て、19年4月から現職。同年6月ソフトバンクグループの社外取締役。ディープラーニング(深層学習)をはじめとするAI研究の第一人者として知られる(写真:山下 裕之、以下同)

新型コロナウイルスの感染拡大によって、テレワークが進むなど働き方が大きく変わる変革期が訪れています。その中で日本はどのような課題を抱えていて、どう解決していったらいいでしょうか。AI研究者の視点で率直なところを教えてください。

松尾豊・東京大学大学院教授(以下、松尾氏):いろいろな側面があると思いますが、オンライン化やデジタル化が進むのはよいことでしょう。例えば、はんこの問題やオンライン診療など、一気に世の中が進んでいることは評価していいと思います。

 こういった方向で変わっていくことが必要だという機運がもっと盛り上がるといいと思いますし、これまでの仕事はそもそも何のためにやっていたのか再考すべきでしょう。例えば、はんこを押すという行為がそもそも何の目的だったかと考えると、本来は印影により真贋(しんがん)を判定できるという性質を使って、正式に認めたものであるということを示していたと思います。しかし、これだけ気軽に認め印が買える中でどういう意味があるのか。本人認証であれば電子署名でいいはずですよね。

 東京都知事選で思ったのですが、逆に選挙では本人確認がありません。投票前に郵送されるはがき(投票所入場整理券)を持っていけば、本人確認はありません。はがきをなくした場合でも、名前を名乗って名簿にのっていれば投票できます。その場合も特に本人確認はないらしいのです。これは現代的な感覚からすると不思議ですよね。

 そうなると、本人とIDの一致を確認する手段はいくらでもあるのに、ネットの選挙はなぜだめなのかと考えてしまいます。新型コロナウイルスの感染拡大によって、そうした根本的なことをもう一度考えるきっかけになっているという意味では、すごくいいことだと思います。このような変化をさらに加速していくということが大事だと思います。

 このほかにも日本には様々な課題があります。オンライン診療はなぜ初診だとだめなのでしょうか。なぜこれまでオンラインの会議が普及しなかったのでしょうか。

 そうした現象の裏には、既存の構造を変えたくない力や、情報技術の変化に社会のリーダーがついていけないといった問題があります。

 例えば、銀行では古い言語、古いアーキテクチャーの巨大なシステムがいまだに使われています。こうしたレガシーなシステムは、企業のIT投資のかなりの部分を占めるにもかかわらず、さして付加価値を生み出していません。これは新型コロナの感染が拡大する以前からの問題でした。

 新型コロナの感染拡大によって、以前からの古い慣習や既得権益の構造が新しい形に変わっていくといいと思います。変化には苦しい面もあるかもしれませんが、日本の競争力が以前よりも上がる結果につながるのではないでしょうか。

課題を解決しなければならないという動きが強まるということは、スタートアップの成長機会も増えそうですね。