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 新型コロナウイルスの猛威は、日本が抱える様々な課題や欠陥を明らかにしました。世界の秩序が変わろうとする中、どうすれば日本を再興の道へと導けるのか。シリーズ「再興ニッポン」では、ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長ら、企業トップや識者による意見・提言を発信していきます。第3回は国際政治学者で米ユーラシア・グループ社長のイアン・ブレマー氏です。

 「経済的景気後退期よりもはるかに恐ろしい地政学的後退期に突入する」。新型コロナウイルスが世界を揺るがす直前の2020年1月、国際政治学者で米ユーラシア・グループ社長のイアン・ブレマー氏は日経ビジネスのコラム「賢人の警鐘」でこう“予言”していた。

 危機は新型コロナにより想定よりも早くやってきた。米国の新型コロナ感染者数は発生から半年が経過してもなお爆発的に増え続け、人種差別撤廃を叫ぶ抗議デモも拡大し続けている。ドナルド・トランプ米大統領に対する国民の信頼は失墜し、11月の次期大統領選の行方も混沌としてきた。

 米国が国内問題に追われれば追われるほど現実味を帯びてくるのが、ブレマー氏がかねて指摘してきた「Gゼロの世界(主導国なき時代)」の到来だ。実際、米国のライバルとなった中国は東シナ海や南シナ海で周辺諸国への挑発的行動を繰り返し、日本を含むアジア全域に不穏な空気を漂わせている。

 一触即発の地政学的危機の中、アフターコロナに日本は復興できるのか。そのために必要な条件とは何か。日本の政府機関や企業の顧客も多いブレマー氏に、再興ニッポンの道筋を聞いた。

イアン・ブレマー氏
ユーラシア・グループ社長。国際政治学者。1994年米スタンフォード大学で博士号取得。25歳で同大学フーバー研究所の最年少研究員に。98年にシンクタンク、ユーラシア・グループ設立。政府系機関や多国籍企業など約300の顧客を抱える(写真:Maki Suzuki)

まず日本の安倍晋三政権による新型コロナウイルス対策をどう評価しますか。

イアン・ブレマー社長(以下、ブレマー氏):安倍政権の人気は以前ほど高くないものの、新型コロナ対策という意味では良い仕事をしたのではないかと思っています。

 もちろん東京五輪を2020年に開催できなくなったことは残念ですし、日本が新型コロナの感染拡大から受けた経済的なダメージは決して小さくない。女性を中心にパートタイムなどの人材が雇用を失ったとも聞いています。

 ただ世界の中で見ると、日本は比較的失業率を低く抑えられています。日本経済は新型コロナ前から成長していたわけではありませんが、安定しており、それは今も同じです。米国などと比べて貧富の差も小さい。

 ですから日本は再興をどう果たすかというより、日本社会がもともと持っている経済安定性や平等社会といった良い部分をどう生かすかを考えるべきでしょう。

とはいえ世界を取り巻く環境はめまぐるしく変化しています。米中のデカップリング(分離)が進めば日本が置かれる状況も変わると思いますが、この点はどう見ますか。

ブレマー氏:これから米中のデカップリングは確実に進みます。次世代通信規格「5G」や半導体、ビッグデータ、国家安全保障の関連技術などにおいて、世界は「米国側」と「中国側」の真っ二つに分かれることになるでしょう。そうなったとき、日本は米国側に付くことになるでしょうね。

誰が次期米大統領でも「分断」は進む

ブレマー氏:これは短期的には日本企業、特にテクノロジー企業にとってメリットになります。

 というのも、半導体など重要部品の世界におけるサプライチェーンが再構築されることになるからです。そのプロセスの中で、日本企業が従来に比べて大きな市場のパイを勝ち取れる可能性があります。ドイツ企業やフランス企業、英国企業にとっても同じですが、特に日本とドイツのチャンスになるのではないでしょうか。さらに5Gやビッグデータなど新技術の標準化においても、日本企業が相応の発言権を持つことになるでしょう。

 ただ忘れてはならないのは「短期的に」という条件が付く点です。長い目で見ると、日本企業は危機に直面します。

 その理由は、繰り返しになりますが、米国が中国との対立を深めていくからです。世界の市場は分断され、規模が小さくなっていきます。また米国側での中心的存在は、もともと開発力の優れる米テック企業であることに変わりありません。日本の企業にとっては苦しい状況になるでしょう。

11月の次期大統領選の結果によっては、米中デカップリングの状況も変わるのでしょうか。

ブレマー氏:これは構造的な問題なので、トランプ大統領が再選しようとジョー・バイデン前副大統領が勝利しようと変わらないでしょう。いずれにしても市場のグローバル化からは離れていきます。もちろんトランプ大統領の方が、より顕著にその傾向が強くなることは間違いありませんが……。

 さらに新型コロナで、世界分断のスピードは加速しました。米国の多くの企業が、政府から資金を援助してもらわないと生き残れない状況です。失業率が上がって国民も政府に助けてもらわなければなりません。労働の自動化が進み、人々の「貧富の差」がますます開いたことで不平等への不満も鬱積しています。

 米国政府は今、集めた税金のほとんどを国内に振り向けなければならない状況にある。この事実は誰が大統領になろうと変わりません。

 この流れ自体は以前からありましたが、新型コロナでぐっと時期が早まりました。