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 新型コロナウイルスの猛威は、日本が抱える様々な課題や欠陥を明らかにしました。世界の秩序が変わろうとする中、どうすれば日本を再興の道へと導けるのか。シリーズ「再興ニッポン」では、ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長ら、企業トップや識者による意見・提言を発信していきます。

 シリーズの第5回は、オープンイノベーションの提唱者である著名な経営学者、米カリフォルニア大学バークレー校経営大学院のヘンリー・チェスブロウ教授(特任)です。イノベーションの必要性が叫ばれながら、世界に後れを取ってきた日本。個々では試行錯誤を繰り返し、地道な努力を続けてきたはずですが、あまりうまくいかなかったのはなぜだったのでしょうか。コロナ禍で将来が見通せない今、日本人が再び立ち上がるために必要なことについて、話を聞きました。

新型コロナの感染拡大下で、先進国の中で日本がIT(情報技術)インフラの整備で大きく後れを取っていたことがはっきりしました。また日本のサービス産業の生産性の低さは以前から指摘されていたことです。

ヘンリー・チェスブロウ(Henry Chesbrough)
米カリフォルニア大学バークレー校経営大学院教授(特任)
1956年生まれ。米エール大学経済学部卒(最優等)、米スタンフォード大学経営学修士(MBA、最優等)、米カリフォルニア大学バークレー校で経営と公共政策の博士号(Ph.D.)取得。ベンチャー企業の役員やコンサルタントとしても活躍。2003年に著作で、境界のない社内外の知的な協働によりイノベーションを起こす必要性を説く「オープンイノベーション」の概念を発表し一世を風靡した。米ハーバード経営大学院助教授などを経て現職。ファカルティー・ディレクターとしてオープン・イノベーション・センターを率いる。

ヘンリー・チェスブロウ米カリフォルニア大学バークレー校経営大学院教授(以下、チェスブロウ):シリコンバレーに住んでいると、日々、新しい技術が生まれるのを目の当たりにします。スピードも加速し、指数関数的な発展を遂げています。

 ただ、情報コミュニケーション技術は世界同時に広がったので、現在も、主要7カ国(G7)であれば十分行き渡っているはずです。ところが、データを見るとG7すべてで生産性が伸び悩み、1950年~60年代から衰退の一途でした。1960年代の日本は生産性の伸びが驚異的で、世界のリーダーでしたが、今は米、英、仏とほぼ同じです。

シリコンバレーの印象が強く米国は進んでいる印象がありましたが、そうではないのですね。

チェスブロウ:経済学者は、今の指標では経済を正確に測れないだけだ、よりよい経済のものさしがあればきっと違うと言います。私は単なる計測の巧拙の問題ではないと思っています。

 G7を中心に生産性が低迷している背後には、「指数関数のパラドックス(Exponential Paradox)」があると考えています。

イノベーションが停滞する「指数関数のパラドックス」

「指数関数のパラドックス」とは?