「今はトップダウンの目標を社員に示す時期ではないと、会社として判断した」。明治安田生命企画部の渡辺俊哉部長はこう話す。

 同社には「生保レディー」と呼ばれる営業社員が約3万3000人いる。新規契約について今年5月、拠点ごとに設けていた販売目標を設定しない方針を決めた。2020年度は「顧客のアフターフォローに徹する時期」と位置付け、組織全体の業績目標も掲げない。経営陣は指標となるような数値は持っているが、現場には公開しないという。

 決断の背景にあるのは、言うまでもなく新型コロナウイルス感染拡大による販売現場の環境変化だ。4月7日に東京や神奈川など7都府県を対象に緊急事態宣言が発令されると、同地域での対面営業を自粛し、リモート営業に転換した。4月16日に対象範囲が全国に拡大されると、全社的に対面営業を停止した。

 生保レディーの販売スタイルはこれまで、対面が7割。営業手法の急激な転換をすれば、対面の制限で新規顧客への接触が難しくなるほか、既存顧客の家計の変化への目配りも欠かせなくなる。そこで、新たな目標にしたのが「お客さまアクセス数」。当面、生保レディーは、契約数ではなく、電話やメールによる既存顧客への“接触回数”の増加を求められることになる。

コロナ禍で対面営業が難しくなり、従来通りの営業手法が通じなくなってきた(写真はイメージ、PIXTA)
コロナ禍で対面営業が難しくなり、従来通りの営業手法が通じなくなってきた(写真はイメージ、PIXTA)

現状では目標の形骸化防げず

 転職サービス『doda(デューダ)』などを手掛ける転職支援会社パーソルキャリア(旧インテリジェンス)も、「数値など具体的な中身は言えない」(転職メディア事業部の喜多恭子・執行役員)としながら、販売目標を見直した。

 春先から『doda』などで掲載する求人件数が鈍り始め、4月になると大幅に下落。主催する転職関連イベントの開催中止もあって、3、4月は毎日の売り上げが目標に遠く及ばず、営業手法も変えざるを得なくなった。従来は「飛び込み営業」も含めた客先訪問が8割を占めていたが、電話をかけても現地訪問してもそもそも担当者がオフィスにいないケースが増えたためだ。

 営業部員から不安の声が上がる中、「このままでは現状の目標設定制度は形骸化してしまううえ、社員のモチベーションを下げる要因にもなりかねないと見直しを決断した」と喜多氏は説明する。

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