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(写真:PIXTA)

 正直、新しい契約の内容はよく分からない。自分が保険を切り替える理由も分からない。

 ただ販売員の必死さは伝わってくる。そもそも郵便局の人がだますわけがない。目の前の販売員が申込書とペンを出したまま急に黙り込んでしまった。契約が取れないとこの人も困るのだろう。なんだかサインを渋るのが申し訳ない気持ちになってきた──。こんな光景が日本中でどれくらい繰り返されたのだろう。

 かんぽ生命保険の不正販売問題の発覚から、1年が経過した。同社が不適切な保険契約の存在を認めたのは2019年6月。当時は19年3月までの5年間で、不適切と疑われる保険契約が約2万4000件あると発表した。

 問題については18年にNHKの番組が取り上げ、いったんは番組に出演した日本郵政グループの幹部が対応が必要と宣言。だが結局は社会問題となり、かんぽ生命はその後、顧客に不利益を生じさせた疑いがある「特定事案」が約18万3000件に上ると公表した。弁護士らで構成する特別調査委員会などによって明らかにされた「不適切な契約」を改めて聞くと、まるで“グレーな販売テクニック”の見本市のようだ。

かんぽ生命による不適切と疑われる保険契約は全国で18万件を超えた(写真は記者会見で謝罪する日本郵政の経営陣、共同通信)

孫が亡くなれば受け取れる保険

 まずは保険の「乗り換え」。文字通り、既に契約を結んでいる顧客を新たな別の保険商品に乗り換えさせることだ。確かに、保険会社が顧客のライフステージに合わせ新商品を提案すること自体はよくある。だが、「顧客が不利益を被る乗り換え」となると、話は別だ。

 例えば、保険料を算定する予定利率が下がったり、旧契約を解約したものの新契約が健康上の理由などで認められず、「無保険」になったりする場合だ。顧客だけが損をし、得をするのは契約実績を積み増せる販売員だけ、という状況になりかねない。

 もっともこの乗り換えについては、かんぽ生命自身もかねて問題視していたようで、比較的早い時期から社内で自重の指示が出た。だがここで代わりに多用されたのが「二重払い」。新契約に乗り換えさせる際に、旧契約の解約を故意に遅らせ、二重払いの期間を作る。これによりその契約は「乗り換え」ではなくなるという。これまた困るのは、保険料を一定期間二重払いする顧客だけだ。

 また「多額契約」という手法もあり、これは顧客の支払い能力を超える数の契約を結ぶことだ。顧客の中には「高齢の母親が2年間で7件の契約を結ばされ、月の支払いが60万円に達した」といった事例もあったという。

 さらに世間を驚かせたのが「孫の死亡保険契約」まで存在した、との報道だろう。高齢者を受取人にして、10~20代の孫が死亡した際の生命保険を契約させていたというのだ。かわいい孫が自分より先に亡くなれば、多額の金を受け取れる保険。この内容を歓迎する人が本当にいるのだろうか。そう指摘する声が絶えない。