安全保障をめぐる技術に詳しい小泉 悠・東京大学先端科学技術研究センター特任助教は「日本は阻止と報復のための攻撃力について考える必要がある」と説く。阻止とは何か。報復とは何か。中距離弾道ミサイルや極超音速兵器、巡航ミサイルが候補に挙がる。

(聞き手:森 永輔)

(前編はこちら

射程の延長が進められている12式地対艦ミサイル(出所:陸上自衛隊HP)
射程の延長が進められている12式地対艦ミサイル(出所:陸上自衛隊HP)

米国による拡大抑止*が確実には利かなくなる局面を想定した場合、具体的にはどのような攻撃力が必要ですか。

*:米国が同盟国に対して提供する抑止力

小泉悠・東京大学先端科学技術研究センター特任助教(以下、小泉):攻撃力には、「阻止」と「報復」の2つの種類があると思います。

 阻止は、敵が戦力を発揮できないようにする力です。いわゆる敵基地攻撃能力はここに含まれます。ただし、現在のミサイルの多くはTEL(発射台付き車両)に載っており、基地と呼べるものはありません。現実には指揮所や通信設備、TELの通路などが目標になるでしょう。

<span class="fontBold">小泉悠(こいずみ・ゆう)</span><br />東京大学先端科学技術研究センター特任助教。専門はロシアの軍事・安全保障政策。1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科を修了。外務省国際情報統括官組織の専門分析員などを経て現職。近著に『「帝国」ロシアの地政学 「勢力圏」で読むユーラシア戦略』『現代ロシアの軍事戦略』など。(写真:加藤康、以下同)
小泉悠(こいずみ・ゆう)
東京大学先端科学技術研究センター特任助教。専門はロシアの軍事・安全保障政策。1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科を修了。外務省国際情報統括官組織の専門分析員などを経て現職。近著に『「帝国」ロシアの地政学 「勢力圏」で読むユーラシア戦略』『現代ロシアの軍事戦略』など。(写真:加藤康、以下同)

 最も費用対効果が高いのは滑走路の破壊だと考えます。敵の航空機が発進できなくなれば、制空、兵站(へいたん)、情報収集のすべてを滞らせることができますから。この用途に必要な装備は射程2000~3000kmの地上発射型弾道ミサイルだと思います。

射程2000~3000kmというと、これまで中距離核戦力(INF)廃棄条約*が米国とロシアに禁止していた対象です。米国は2019年8月に同条約を失効させ、地上配備型中距離ミサイルの保有が可能になりました。インド太平洋地域に配備する意向を強めています。日本も配備の候補地。米国から申し出があった場合、受け入れるべきでしょうか。

*:射程が500~5500㎞の地上発射型の弾道ミサイルと巡航ミサイルの廃棄を定めた

小泉:現実に受け入れられる国は日本しかないでしょう。配備地点としては南西諸島が有力だと思います。

 他方、米陸軍がLRHW(長距離極超音速兵器)の実戦配備を始めています。

LRHWの速度はマッハ5以上、射程は3000km弱と言われています。発射装置は車載型で移動が容易です。

小泉:日本も「阻止」のためにLRHWと同等の打撃力を保有できればよいと考えています。飛行速度が速く、射程が長いことに加えて、滑走路を破壊できる威力を持ち、陸上から打つことができて、かつ容易に移動できる機動性を備えている。

 日本で現在、島嶼防衛用高速滑空弾の開発が進んでいます。事実上の極超音速兵器となるようなので、将来的に長射程の打撃力を保有する上での基礎になると思います。

 阻止のための攻撃力として、2020年12月に改良を閣議決定した「12式地対艦ミサイル能力向上型」も有効と考えられます。射程を現行の200kmから900km程度まで延伸し、将来的には1500kmを狙うという報道もあります。航空自衛隊が運用する新型長距離対艦ミサイルや米海兵隊が運用する予定の地対艦型トマホーク巡航ミサイルと組み合わせれば、中国軍の艦艇や輸送艦、揚陸艇の接近を遠距離から阻止する能力が高まり、相手方の武力行使のコストを高めることが期待できます。

阻止のための攻撃力として備える各種ミサイルは、航空機や艦船に搭載するタイプを想定していますか。

小泉:私は海空発射型だけでなく地上発射型を含めるべきだと考えます。先ほど、阻止の手段として、相手国が保有する滑走路への攻撃が費用対効果が高いと話しました。同様のことを相手国も考えます。日本の滑走路や港湾を狙ってくるでしょう。こうした設備が使用不能になると、航空機や艦船に搭載するタイプでは継戦能力が落ちてしまいますから。地上発射型のミサイルならば滑走路や港湾の心配をする必要がありません。

 空港や港湾を使用し続けられるようにすることも非常に大事です。先ほど言及した、損害を吸収する能力(抗堪性)を高めることになります。

 そのためには、分散を図ることが欠かせません。現在、南西方面では統合防空ミサイル防衛(IAMD)システムの構築が進められていますが、防御は常に完璧とは限りません。IAMDで那覇と嘉手納の滑走路が使用できる時間を可能な限り延ばしつつ、下地島などの民間インフラも活用して分散化を図るべきです。

 2019~23年度を対象とする中期防衛力整備計画で空中空輸機を1個飛行隊増やすと決定したのも、この点から評価できます。抗堪性と代替性を高めても、滑走路が危険にさらされることはあるでしょう。そうした場合に、攻撃に参加する飛行隊が、危険のある基地に戻ることなく空中にとどまり、機を見て攻撃に転じるといった作戦を取ることができるようになるからです。

次ページ 「耐え難い」損害は難しくても「受け入れ難い」損害を与えられれば