イージス艦「あたご」。閣議決定で導入を決めた「イージス・システム搭載艦」は「イージス艦」とは異なる可能性がある(写真:新華社/アフロ)

日本政府が、イージス・アショアの代替策として「イージス・システム搭載艦」の導入を閣議決定した。日本の防衛政策に詳しい小谷哲男・明海大学教授は、これにより「日本のミサイル防衛能力は上がらない」と指摘する。それはなぜか。同時に開発推進が決定した国産スタンド・オフ・ミサイルを、敵基地攻撃に利用する意図は政府にはないとみる。見込まれるのは、台湾有事に伴う南西諸島防衛への適用だ。

(聞き手:森 永輔)

政府が12月18日、①イージス・アショアの代替として「イージス・システム搭載艦」を導入する、②国産スタンド・オフ・ミサイル*の開発推進、を閣議決定しました。6月に、イージス・アショア配備計画を停止して以来、ようやく新たな方針を正式に決めました。これによって、日本のミサイル防衛能力や抑止力は向上するでしょうか。

*:敵の攻撃の圏外から対処できる長射程のミサイル
小谷 哲男(こたに・てつお)
明海大学教授、日本国際問題研究所主任研究員。2008年、同志社大学大学院法学研究科博士課程を単位取得退学。その間、米ヴァンダービルト大学日米センターでアジアの安全保障問題、特に日米関係と海洋安全保障に関して在外研究に従事する。その後、海洋政策研究財団、岡崎研究所、日本国際問題研究所で研究員を歴任。現在は、日本の外交・安全保障、日米同盟、インド太平洋地域の国際関係と海洋安全保障を中心に研究・発信を行うとともに、「海の国際政治学」を学問として確立すべく奮闘中。主な著書に『現代日本の地政学(共著)』(中公新書、2017)、『アメリカ太平洋軍の研究(共著)』(千倉書房、2018)など

小谷:結果的には向上するどころか、低下することになります。イージス・アショアを計画通り配備した場合のミサイル防衛能力を100とすれば、60~70にとどまるでしょう。

あえて、能力を低くすることを決めたのですか。それはなぜでしょう。

小谷:イージス・アショアは陸上配備なので、24時間365日、北朝鮮の弾道ミサイル脅威の探知・迎撃に当たることができます。しかも運用は比較的人員に余裕のある陸上自衛隊に任せることができます。これに対してイージス・システム搭載艦は船なので、メンテナンスの必要があり稼働率がずっと低くなります。しかも、運用に1隻当たり200~300人が必要。海上自衛隊はすでに人手が足りない状態にあります。北朝鮮が発射する弾道ミサイルを警戒する能力は下がるし、コストも増すことになります。

しかし、イージス・システム搭載艦は船なので、イージス艦の本来の役割である南西諸島方面の艦隊防空に回ることができるのはありませんか。海上自衛隊が現在整備を進めているイージス艦8隻と合わせて、イージス・システムを搭載する艦船が10隻体制になれば厚みが増すことになるのでは。

小谷:そうなればよいのですが、そうなるかはまだ分かりません。閣議決定にある「イージス・システム搭載艦」は、現行のイージス艦とは異なる可能性があります。潜水艦の攻撃から自らを守る機能など、護衛艦が備えている機能を備えるかどう分からないのです。

配備するのは、陸上イージスの「海上版」

 英語での表現が分かりやすいでしょう。海上自衛隊関係者はイージス・システム搭載艦を「Aegis Ashore Afloat」と表現します。イージス・アショアを海上に配備する、との意味です。他方、通常のイージス艦は「Aegis Destroyer」です。「Destroyer」は駆逐艦の意味です。つまり、イージス・システム搭載艦は通常のイージス艦ではないという認識です。よって、8隻体制が10隻体制に拡充できるわけではないかもしれません。

 潜水艦への対処能力を装備するためには、コストが一層かかるし、運用に人手も要します。政府はこれを決めかねているのでしょう。

イージス・システム搭載艦は「艦」の文字が入っているけれど、当初のイージス・アショア代替案にあった洋上リグ(人工浮島)やミサイル防衛に特化した専用船と変わらないのですね(関連記事「ロッキード・マーチン『SPY-7とイージスは完全に統合されている』」)。

小谷:洋上リグは、機動性がありませんし、自己防衛力が低くなります。イージス・システム搭載艦はそれよりはましですが柔軟性があるとは言えません。「どうせ代替案を考えるならば、拡張性のあるものを」という自民党議員の要望を考慮したのでしょう。

 船に載せ移動能力を高めるとともに、弾道ミサイル以外の脅威に対応する能力も加えることが議論されました。

IAMD(統合防空ミサイル防衛)ですね。巡航ミサイル、有人・無人航空機、短射程のロケット弾を含む、あらゆる航空・ミサイル脅威に対して応用できるようにする機能強化です(関連記事「『日本のミサイル防衛はキーパーだけでサッカーするようなもの』」)。

小谷:はい、そうです。

 懸念されるのは想定していた弾道ミサイル防衛能力を得られないことだけではありません。他の装備の整備にもマイナスの影響を及ぼすと思います。導入予定の「SPY-7」レーダーは地上に配備する前提だったので、船に載せることになると改修が必要になります。加えて、これから実施する必要のある実験の費用は日本政府が負担しなければなりません。長期的なライフサイクルコストも算出できていません。よって、イージス・システム搭載艦は自衛隊史上で最も高価な装備品となる見通しとなりました。このしわ寄せが他の装備の配備に及ぶことになります。

 イージス・アショアを配備する狙いは、イージス艦にかかる負荷を軽減するとともに、24時間365日の警戒・監視を実現することにありました。どちらも実現せずコストは余計にかかるので、今回の閣議決定は本末転倒の内容と言わざるを得ません。イージス・アショアの代替案は陸上配備であるべきだったと思います。自衛隊が所有する施設に候補を限定せず、どこかの沿岸にあるゴルフ場を買収するなど、手段はほかにもあったのではないでしょうか。

続きを読む 2/5 国産スタンド・オフ・ミサイルの開発推進は「政治的配慮」

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