台湾有事が起きたとき、朝鮮半島はどのような状態になるのか。北朝鮮はいかなる行動を取るか。韓国軍と在韓米軍はいかなる態勢を取るのか。韓国の外交に詳しい伊藤弘太郎・キヤノングローバル戦略研究所主任研究員に聞いた。

(聞き手:森 永輔)

前回はこちら)

台湾有事が起きたとき、北朝鮮はいかなる行動を取るか(写真=KCNA/UPI/アフロ)
台湾有事が起きたとき、北朝鮮はいかなる行動を取るか(写真=KCNA/UPI/アフロ)

前回は、台湾有事の一環で、中国軍が韓国もしくは在韓米軍を攻撃するケースについて伺いました。今回は、台湾有事をトリガーに北朝鮮が韓国に対し何かしらの軍事行動をする蓋然性について伺います。

 (1)台湾有事に米韓が介入するのを防ぐため、かく乱行動を起こすよう中国が北朝鮮の背中を押す、もしくは(2)台湾有事で米韓が混乱するのを好機と見た北朝鮮が自らの判断で韓国に対し行動を起こす、といったケースが考えられるのではないでしょうか。

伊藤弘太郎・キヤノングローバル戦略研究所主任研究員(以下、伊藤):そのどちらもあり得ると思います。

 米上院軍事委員会が今年5月の公聴会に次期在韓米軍司令官内定者のポール・ラカメラ ・インド太平洋陸軍司令官(当時)を招いた際、議員から「中国が台湾に侵攻した場合、北朝鮮がこれを南を侵略する機会と捉えるか」という質問がありました。米国では、台湾有事が起これば北朝鮮が動くということが現実感をもって議論されています。

<span class="fontBold">伊藤弘太郎(いとう・こうたろう)</span><br />キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。専門は韓国の内政・外交安全保障政策および東アジアの国際関係。2001年に中央大学総合政策学部を卒業、17年に同大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得満期退学。衆議院議員事務所、日本国際交流センターでの勤務を経験。内閣官房国家安全保障局にて、参事官補佐として韓国を中心とする東アジア地域の政策実務に携わった後、17年から現職。淑徳大学コミュニティ政策学部兼任講師や立命館大学共通教育推進機構客員准教授も務める。(写真:菊池くらげ、以下同)
伊藤弘太郎(いとう・こうたろう)
キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。専門は韓国の内政・外交安全保障政策および東アジアの国際関係。2001年に中央大学総合政策学部を卒業、17年に同大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得満期退学。衆議院議員事務所、日本国際交流センターでの勤務を経験。内閣官房国家安全保障局にて、参事官補佐として韓国を中心とする東アジア地域の政策実務に携わった後、17年から現職。淑徳大学コミュニティ政策学部兼任講師や立命館大学共通教育推進機構客員准教授も務める。(写真:菊池くらげ、以下同)

 米国は具体的な対処行動も起こしています。在韓米軍は11月29日、陸軍部隊に配備しているアパッチ攻撃ヘリコプターを常駐に切り替える決定を下しました。北朝鮮の陸上戦力に対する攻撃力を高めるための措置です。これまではローテーション配備でした。

台湾有事を機に北朝鮮が動くとして、その程度はどれほどのものになるでしょう。韓国軍や在韓米軍の注意が台湾に向き韓国防衛が手薄になったのを機に「半島統一」とまで考えるのか。

伊藤:現時点では、北朝鮮が「半島統一」を考えるほどの気概を持っているとは考えづらいです。新型コロナ禍の影響で国力がかなり弱っています。兵力は弾道ミサイル中心になっており、通常兵力で韓国軍と戦えるとは思えません。できるとすれば、嫌がらせ程度ではないでしょうか。

 ただし、嫌がらせと言っても程度は様々です。在韓米軍の動きをそぐレベルのものになると話が大きくなりかねません。エスカレーションのラダー(はしご)が偶発的に上がっていくことが十分考えられるからです。米軍は台湾と朝鮮半島で2正面作戦を取るよう迫られる事態にも陥りかねません。

 専門家の多くは「台湾有事は台湾周辺の局地戦にとどまる」という見方をしています。米国が2正面となる事態を望まないからというのが理由です。同様に、中国にとっても2正面となる事態は必ずしも得策とは言えません。よって「米中ともに望まない事態は起こらない」というわけです。

 しかし戦争である以上、「局地戦にとどめたい」との考えを「戦争に勝つ」との意欲が上回ることがないとは断言できません。私たちはあらゆる不測の事態に備えるためにすべての起こりうる選択肢をテーブルに載せて考えておく必要があります。

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