中国が12月1日、中国輸出管理法を施行した。国の安全と利益を守るため、軍用品やデュアルユース(軍民両用)品について、輸出を禁止できるようにする。日本はそのターゲットにされるのか。どこまでがデュアルユース品に含まれるのか。懸念が高まる。同法がもたらす影響について、中国経済のエキスパート、齋藤尚登・大和総研主席研究員に聞いた。(聞き手:森 永輔)

中国が12月1日、中国輸出管理法を施行しました。軍用品やデュアルユース(軍民両用)品について、国の安全と利益を守るため、輸出を禁止できるようにする制度です。齋藤さんは、この法律のどこに注目しますか。
齋藤:大きく2つあります。1つは、米国のトランプ政権が始めた華為技術(ファーウェイ)などを対象とする輸出規制に対抗すべく導入した、受け身の措置であることです。これは中国が独自に始めたものではなく、報復措置ですね。

大和総研経済調査部担当部長、主席研究員。専門は中国経済と株式市場制度。 1998年に大和総研入社。2003~2010年、大和北京において中国経済、株式市場制度を担当。2010年から大和総研で中国経済、株式市場制度を担当し現在に至る。主な著書に『この1冊でわかる世界経済の新常識』(日経BP社、2020年、共著)
条文に使われている表現に加えて、運用に目を向ける必要があると思います。一義的には米国に対して発動することを念頭に置いており、「軍用品」や「デュアルユース」の範囲は米国が取る措置に応じて変化させるでしょう。
基本的には、対象を極小化したい意向だと思います。輸出総額に占める割合が数%になるのか、コンマ数%になるのかは分かりませんが。そして、規制対象としない部分をなるべく広くし、その分野での貿易を活発にすることで経済を成長させることを望んでいる。
米国も同様でしょう。米国が貿易を手段に中国を攻めている事態の本質は、軍事面での優位を維持すべくハイテク覇権を守ることです。その先にあるは、基軸通貨としてのドルの力を保つことでしょう。そのためにヒト、モノ、技術、カネを囲い込もうとしている。この点で、米国が譲ることはないと思います。けれども、その他の分野でデカップリングを図れば、自分の首を絞めることになりますから。
相互依存する経済、全面的なデカップリングは不可能
安全保障の専門家と議論すると、「敵か味方か」「ゼロか100か」という議論になりがちです。しかし、経済はそうはなりません。軍事に関わる部分ではデカップリングが必要となっても、その他の分野は相互に依存、補完する関係にあります。米中経済の相互依存する部分をデカップリングすることはできません。
中国輸出管理法が対象とする品目はごく小さな範囲にとどまると想定され、これを過大に恐れる必要はないと考えます。
中国輸出管理法の条文を読むと、対象を「米国」に限っているわけではありませんが、基本的には米国に対抗措置を取るための法律なのですね。
条文は「軍用品」と「デュアルユース品」「核物質、核設備、原子炉用非核材料及び関連サービス」を主な対象に挙げています。「デュアルユース品」という表現は、ありとあらゆるものを対象とすることができる印象を与えます。AI(人工知能)であれ、宇宙に関わる技術であれ、最先端テクノロジーはどれもデュアルユースですから。しかし、「極小化」すべく運用する。
少し、安心しました。
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