
中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は2022年10月16日、中国共産党大会の政治報告の場で、台湾統一を「党の歴史的任務だ」と改めて明言した。基本は平和的統一としているが、武力統一の選択肢も排除していない。中国共産党創立100年を祝う21年7月の演説では、その「能力がある」とも訴えた。
台湾有事の蓋然性について専門家の意見は分かれるが、仮に現実になれば、それは日本有事となる。懸念される台湾有事の蓋然性はどれほどなのか。そのとき日本に、東アジアに、そして世界に、どのようなことが起こり得るのか。今、日本にできることは何があるのか。
日経ビジネスLIVEでは、日本の外交を担ってきたキーパーソンに、台湾有事をめぐる今と将来を語っていただくウェビナー(全2回)を開催。11月9日の第2回は、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹、内閣官房参与を務める宮家邦彦氏に「バイデン政権は台湾をめぐる戦略的曖昧政策を変更したのか?」と題して、登壇いただいた。
(構成:森脇早絵、アーカイブ動画は最終ページにあります。文中に登場する人物の肩書は、当時のまま記載している場合があります)
森 永輔・日経ビジネス・シニアエディター(以下、森):本日は、「なぜ今、台湾有事が懸念されるのか?」をテーマにしたウェビナーシリーズの第2回です。「バイデン政権は台湾をめぐる戦略的曖昧政策を変更したのか?」と題して、宮家邦彦さんにご講演いただきます。宮家さんは、1978年に外務省に入省後、日米安全保障条約課長、外務大臣秘書官、在中国大使館公使、在イラク大使館公使などを歴任され、現在はキヤノングローバル戦略研究所研究主幹、内閣官房参与をお務めになっています。

宮家邦彦・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹、内閣官房参与(以下、宮家氏):本日は、3つのテーマを用意しました。1つ目は、「習近平『一強』に、リスクは高まった?」。2つ目は「バイデン政権は台湾とどう向き合うのか?」。3つ目は「台湾をめぐる日本の立場は変わる?」です。
まず、テーマ1の「習近平『一強』に、リスクは高まった?」です。10月16日、習近平氏は台湾統一を「党の歴史的任務だ」と明言しました。しかし、これは以前から変わらない方針で、重要なのは「武力による侵攻を排除しない」と党規約に書いたかどうかです。明言したからといって、台湾統一を急にやろうとするわけではありません。
米国は、習近平氏の中国共産党総書記3選をどう見たか。多くの人はこれを「権力集中」と言うけれど、私は、共産党を守るためにどうしてもやらなければならなかったと捉えています。父(習仲勲氏)の世代がやったことを潰すわけにはいかないという、強い意向があったと思います。
習近平氏は、台湾の武力統一を成功させ、永続させることができると本当に思っているでしょうか。陸軍国のロシアが、ウクライナにあれだけてこずっているのです。しかも台湾海峡の幅は180キロ以上ある。陸軍国の中国が、どうやって武力統一するのでしょうか。
ウクライナ戦争から得られる教訓の1つは「専門家は間違える」ということ。ロシアを専門に研究する人たちの多くは間違えました。「ロシアはウクライナに侵攻するはずがない」と言っていたのですから。それは、彼らが勉強していなかったわけではなく、プーチン氏のことをよく勉強した結果、「絶対ない」と結論づけた。プーチン氏は、客観的で合理的な判断を下す人物だと思っていたからです。
しかし、残念ですがプーチン氏も間違える。であるならば、我々の近くにある巨大国家の指導者は、果たして客観的で合理的な判断を下せるのか。権威主義国のリーダーが判断ミスをしたら、修正するのは大変です。
ある新聞で、私が尊敬する、中国専門の記者が中国共産党のトップ人事を予想しました。次の指導部候補には、「共青団(中国共産主義青年団)」、いわゆる「団派」といわれる胡錦濤(フー・ジンタオ)氏に近い人たちが選ばれるのではないかと書いていました。ところが実際に蓋を開けてみると、団派の人たちはほとんど選ばれなかった。これが、「習近平一強」といわれるゆえんです。
この状態で習近平氏は本当に正しい判断ができるのか。周りがイエスマンばかりのときは、だいたい判断ミスをするものです。ロシアがいい例です。今回の中国共産党のトップ人事を見ると、中国も危ういという気がします。
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