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日本にとって、カンボジアやラオス、ミャンマーの底上げを図ることは国益にかないますか。

浦田:こうした国々の経済が発展する、それによって、ASEAN諸国間の格差が縮小し、結束が一層強まるのは好ましいことだと思います。

 中国はこれを、必ずしもよいことだとは思っていないかもしれないですね。中国にとって、ASEAN諸国が反中国でまとまるのは困った事態です。それよりも、ASEANが分断されているほうが好ましい。だとすると、中国はRCEPの枠組みの中での経済協力よりも、カンボジアなどに対する2国間協力を重視する可能性がありますね。

日本のメリットは中韓とのFTA、ルールの共通化

日本にとってRCEPはどのような存在になりますか。

浦田:いまお話しした、TPP11を拡大させFTAAPへ歩みを進めるてこであることが1つ。加えて、中国と韓国との貿易を拡大し、目の前にある経済的な利益を享受する意義があります。日本にとって中国は最大の貿易相手国、韓国は第3位のパートナーです。両国との間で関税率を低下させれば、貿易の大きな拡大を見込めます。

 関税率の引き下げ、廃止に加えて、貿易拡大をうながすドライバーになるのはルールの共通化です。

 1つの主要な分野として、政府調達があります。WTO(世界貿易機関)は政府調達協定があり、政府調達における公平かつ透明な手続きを規定しています。けれども中国はこの協定に参加していません。したがって、中国の政府調達市場は日本などの外国企業にとって極めて閉鎖的なのです。今回、RCEPに政府調達分野についてのルールが含まれたので、日本企業による中国の政府機関に対する販売が拡大することが期待されます。

 また投資や知的財産に関するルールでも日本企業にとってメリットをもたらす内容になっています。両分野について、WTOにすでにルールはありますが、RCEPは投資についてより高度な自由化を、知的財産についてはより高度な保護を認めています。

 加えて重要なのは、原産品かどうかを確かめるのに「累積規定」を導入したことです。FTAでは通常、輸入関税を引き下げ・撤廃にする対象を、相手国の原産品に限ります。FTAを結んでいない第三国製の製品が、相手国を単に経由して日本に輸出されるケースが考えられますが、これは輸入関税の引き下げ・撤廃の対象にしません。

 しかし累積規定があれば、例えば、タイから輸入する製品Aの原料の大半がタイ産でなくても、RCEP加盟国が生産した原料であれば、製品Aを「タイ産」とみなします。よって、RCEP加盟国は原産地を気にすることなく、加盟国を一体のものとして最適のサプライチェーンを構築することができます。

 私は関税率の引き下げ・撤廃以上に、こうしたルールの共通化が重要と考えます。

農産物「重要5品目」の聖域化は競争力をそぐ

農業分野では、コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、砂糖の重要5品目を関税撤廃・削減の対象から除外しました。これをどう評価しますか。

浦田:日本は総じてRCEP交渉をうまく進めたと思います。

 例えば、中国との間でウィン・ウィンの交渉をまとめました。中国は自動車部品について約87%の品目で関税を撤廃します。日本からの輸出5兆円分が対象になります。電気自動車用モーターの一部は、現在10~12%と比較的高い関税がかけられているので、これが撤廃となるのは大きいです。

 もちろん、中国にもメリットがなければなりません。電気自動車用モーターの一部は関税を撤廃するものの、16~21年目と比較的長い時間をかけて撤廃することで合意しました。

 農産物に関しては、“聖域”を譲らなかったことが評価されています。しかし、この点は、経済学者としては容認しがたい面があります。農業全体の将来の成長を犠牲にするからです。