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浦田:これまでの経緯を振り返ると、確かにそういう側面はあります。けれども、それがすべてではありません。

 TPP(環太平洋経済連携協定)はもともと、「P4」と呼ばれる4カ国で構成する小さなFTAで2006年に発効しました。4カ国とはニュージーランド、シンガポール、チリ、ブルネイです。ジョージ・W・ブッシュ政権の米国が2006年にFTAAPを提案する一方、TPPの下で開始されたサービスおよび投資の交渉に参加したのです。その後、バラク・オバマ政権が2010年3月、先の4カ国に米国、オーストラリア、ペルー、ベトナムを加えた8カ国で、包括的な内容を含む交渉を開始し、後のTPPへと発展させていきます。

(写真:加藤 康)

 ブッシュ政権の背中を押したのは、1990年代に広がったアジア通貨危機でした。これに危機感を覚えたアジア諸国は地域経済圏を構築する必要があると考え、「ASEAN+3」や「ASEAN+6」といったFTA構想を提唱し始めました。「ASEAN+3」はASEAN加盟10カ国に日本と中国、韓国の3カ国を加えた枠組み。「ASEAN+6」は、「ASEAN+3」にオーストラリアとニュージーランド、インドを加えた枠組みです。米国はこれらの地域経済圏が実現しても、アジア地域経済へのアクセスを確保すべくTPPへの参加、拡大を目指したのです。

 「中国はずし」の性格は途中から加わりました。2008年のリーマン・ショックのあと、中国が4兆元の財政政策を断行して世界経済をけん引。これを境に米国は中国を脅威として認識するようになりました。

 ただし、「中国はずし」という表現が適切かどうかは微妙です。米国が問題視したのは中国による不公正な貿易慣行。知的財産権を侵害するとか、国有企業に対して不透明な形で補助金を支給するといった行為ですね。よって、米国主導で守るべきルールを明確にし、これを守る意思のある国が集まるグループをつくることで、中国に行動の是正を迫ろうと考えたのだと思います。TPPに加盟する国が増えれば、中国は行動を改めざるを得ません。よって「中国はずし」ではなく、「中国をふつうの国にする取り組み」と考えることができるのです。

 他方、中国は、TPPへの加盟とその拡大を図る米国の動きを「対中包囲網」と認識し、これに対抗する別の経済圏が必要と考え、ASEANが提唱するRCEPに傾きました。ASEANは日本、中国、韓国、インド、オーストラリアと個別にFTA(自由貿易協定)を結んでいた。RCEPはこれらを統合してメガFTAに発展させる構想です。よってRCEPは、中国が防衛の意識を働かせたことが始まりであり、米国との覇権争いをする道具立てとしてだけRCEPを推進してきたのではないと思います。

RCEPは経済協力の枠組みでもある

浦田:RCEPをめぐる報道を見ていると、貿易の自由化とルールの策定にばかり目が向けられています。けれども、RCEPにはもう1つ、別の性格があります。地域において経済協力をうながす枠組みです。カンボジアやラオス、ミャンマーといった国々は先ほど触れた「法の支配」になじんでいないし、経済の発展もそれほど進んでいません。そこでRCEP加盟国が協力して、こうした国々の発展を助け、一緒に成長することを目指す。

 RCEPには「ガイディング・プリンシプル」という交渉の指針があります。私はこの指針のたたき台の策定に関与しました。ASEAN諸国がここで重視していたのは協力でした。これに対してTPP11は、発展途上国と先進国を区別せず、両者が同じルールを順守することを求めます。

加盟国の顔ぶれをみると、日本と中国、韓国が資金と技術を提供して、カンボジアやラオス、ミャンマーの底上げを図るという図式になるのでしょうね。

浦田:協力がどのような形で行われるのかは分かりません。協力については今挙げられた国々に加えて重要なのはオーストラリアです。同国はASEAN諸国を積極的に支援しています。中でも熱心なのは人材育成分野です。