習近平政権が11月11日、6中全会の場で新たな歴史決議を採択した。習近平国家主席の権威を高め、共産党政権の正当性を強調する表現が並ぶ。中国現代史に詳しい高原明生・東京大学教授はこれらに加えて、「1981に採択された前回の歴史決議の中に書き替えたい箇所があった」と指摘する。その部分には何が書かれていたのか。高原明生・東京大学教授に聞いた。

(聞き手:森 永輔)

習近平政権が11月11日、6中全会の場で新たな歴史決議を採択した(写真:新華社/アフロ)
習近平政権が11月11日、6中全会の場で新たな歴史決議を採択した(写真:新華社/アフロ)

高原さんは、今回の歴史決議のどこに注目しましたか。

高原明生・東京大学教授(以下、高原):同決議の全文はまだ発表されていません。なので、コミュニケを基にお話ししましょう。コミュニケは同決議の要約だと言ってよいでしょう。

 私が注目したのは、今回の決議は「習近平の習近平による習近平のための歴史決議」だったことです。

 <span class="fontBold">高原明生(たかはら・あきお)</span><br />東京大学大学院法学政治学研究科教授。専門は現代中国の政治と東アジアの国際関係。1981年に東京大学法学部卒業。1983年 サセックス大学開発問題研究所修士課程(MPhil)を、1988年 に同博士課程(DPhil)を修了。笹川平和財団研究員や在香港日本国総領事館専門調査員、立教大学法学部教授などを経て、2018年から20年まで東京大学公共政策大学院院長(写真:菊池くらげ、以下同)。
高原明生(たかはら・あきお)
東京大学大学院法学政治学研究科教授。専門は現代中国の政治と東アジアの国際関係。1981年に東京大学法学部卒業。1983年 サセックス大学開発問題研究所修士課程(MPhil)を、1988年 に同博士課程(DPhil)を修了。笹川平和財団研究員や在香港日本国総領事館専門調査員、立教大学法学部教授などを経て、2018年から20年まで東京大学公共政策大学院院長(写真:菊池くらげ、以下同)。

 歴史決議にはそれぞれ狙いがあります。毛沢東が1945年に出した歴史決議は、毛沢東の権威と権力の確立を宣言するものでした。鄧小平たちが1981年に採択した2回目の歴史決議は、毛沢東の階級闘争至上主義を否定すると共に、華国鋒を打倒した後の新指導部が新しい路線に踏み出すことを正当化する狙いがありました。いずれも、政治闘争の勝者が歴史を書くことで新たな方針を示すものだったと言えます。

 しかし、今回の歴史決議は直近の過去を否定して新方針をうたうものではありません。ただ習近平(シー・ジンピン)国家主席の権威を高め、習氏と中国共産党が今後も政権を担うことを正当化しようと試みるものでした。この点を指して、私は今回の歴史決議を「習近平の習近平による習近平のための歴史決議」と呼んでいます。

 このような政権が続くので、中国に暮らす人々は一面ではたいへんだと思います。

どうしてたいへんなのですか。

高原:同調圧力が非常に高まっているからです。習近平政権に対して異論を述べることができない空気が中国社会にまん延しています。共産党員はもちろん、一般国民も同様です。

 監視の目も厳しくなる一方です。私もこんな経験をしました。北京大学に招かれて、同大の学生に対してオンラインで授業をしていたのです。いま中国の大学はオンライン授業をセットする際、中国製の会議システムを利用するよう義務付けられています。このときは騰訊控股(テンセント)が開発したVooVを利用しました。授業を進めていると、突然、私がVooVの「会議」から排除されてしまったのです。

 再接続を試みてもかないません。仕方がないので、私がZoomで会議を立ち上げ、中国の学生たちがそこにアクセスする仕組みに切り替えて授業を続行しました。

 原因は不明ですが、私が授業の中で「尖閣諸島」という表現を数回繰り返したことがひっかかったのではないかと指摘されました。中国では「釣魚島」と呼ばないといけない。オンライン授業を監視する仕組みがあったわけですね。

 数年前に「中国は西朝鮮になった」というジョークがはやりました。もはや、これが冗談でなくなってきています。

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