中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は2022年10月16日、中国共産党大会の政治報告の場で、台湾統一を「党の歴史的任務だ」と改めて明言した。基本は平和統一としているが、武力統一の選択肢も排除していない。実際、中国共産党創立100年を祝う2021年7月の演説では、その「能力がある」とも訴えた。

 台湾有事の蓋然性について専門家の意見は分かれるが、仮に現実になれば、それは日本有事となる。では、懸念される台湾有事の蓋然性はどれほどなのか。そのとき日本に、東アジアに、そして世界に、どのようなことが起こり得るのか。今、日本にできることは何か。

 日経ビジネスLIVEでは、日本の外交を担ってきたキーパーソンに、台湾有事をめぐる今と将来を語っていただくウェビナー(全2回)を開催。11月1日の第1回は、駐中国大使を務めた宮本アジア研究所代表の宮本雄二氏に「米中の軍事衝突を回避せよ! 中国は変わる! 改革開放政策の支援がカギ!」と題して、登壇いただいた。

(構成:森脇早絵、アーカイブ動画は最終ページにあります。文中に登場する人物の肩書は、当時のまま記載している場合があります)

森永輔・日経ビジネス シニアエディター(以下、森):本日は、「なぜ今、台湾有事が懸念されるのか?」をテーマにしたウェビナーシリーズの第1回です。「米中の軍事衝突を回避せよ! 中国は変わる! 改革開放政策の支援がカギ!」と題して、宮本雄二さんにご講演をいただきます。

宮本雄二・宮本アジア研究所代表(以下、宮本氏):本日は、台湾問題は米国にとっても中国にとっても大変重要な問題だということをご説明した後、今置かれている状況について解説いたします。

中国共産党にとって祖国統一は歴史的重大任務

宮本氏:米中にとって、台湾問題がどのような意味を持っているのか。まずは、中国にとっての重要性についてお話しします。

 1949年、中国共産党は中華人民共和国を打ち立てました。一方、中国共産党に負けた中国国民党、すなわち蒋介石政権は台湾に逃亡します。(中国共産党は)台湾を武力解放して祖国統一を実現すると考えていたのですが、50年に朝鮮戦争が起こりました。

 中国がそれに参戦し、ソ連(ソビエト連邦)のグループに入ったことから、米国は共産党政権ではない台湾の中華民国を承認します。当然、米国は中華民国の安全を守りますから、アジアに東西冷戦が定着しました。中国は2度、台湾解放を試みましたが、米国に反撃されて実現しませんでした。

 そして72年、米中関係が改善します。リチャード・ニクソン米大統領の中国訪問という、まさに大転換が行われたのです。

 こうして米国は、ソ連に対する共同戦線に中国を巻き込みました。また、当時はベトナム戦争が泥沼化しており、米国の内政上、いかに上手にベトナムから撤退するかが極めて重大な課題でした。そのために、中国との関係を改善しようとしたわけです。

 他方、中国は米国と組むことで、ソ連からの脅威に対抗できる。米国との関係を改善すれば、米国依存の中華民国もいずれは中国の風下に立つ。中国にはそういう期待も強くありました。

 他方、72年9月、田中角栄首相と大平正芳外相が訪中し、日本はその場で国交正常化を果たします。それに対して、先に中国との関係改善に動いた米国は、79年まで国交正常化を待たなければなりませんでした。

 ここで何が問題だったか。中国は、米国による台湾への武器輸出をやめさせたいと考えていましたが、米国はやめたくない。このため、だらだらと国交正常化が遅れてしまったのです。

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 当時のジミー・カーター米大統領は、中国との関係を決めるべく動き出します。中国側も、77年に鄧小平氏が3度目の復活をして、米国側と話せる体制が整いました。ここでようやく鄧小平氏とカーター氏との間で話が進み、国交正常化に至ります。

 そのとき、鄧小平氏は当然、米国の台湾への武器輸出はいずれなくなるだろうと想定していました。米国は、この点をはっきりさせていなかったので、「鄧小平氏は誤解しているかもしれない」と考え、北京にいるウッドコック米大使が鄧小平氏に会いに行きました。ウッドコック大使が「引き続き、台湾に武器を輸出する」と言うと、鄧小平氏は「武器輸出を続けるのならば、国交断絶もやむを得ない」と激怒したんですね。

 ウッドコック大使はなかなか周旋が上手な人で、鄧小平氏に「米中が国交正常化するチャンスはなかなかない。今、国交正常化さえしておけば、米国もいずれは変わるかもしれない」と言い、鄧小平氏も「分かった」と言って、国交正常化となったのです。

 この台湾への武器輸出の問題は、鄧小平氏が対米外交関係断絶も覚悟するほどの重要な問題でした。それは今日も変わりません。

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