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米大統領選で民主党のバイデン候補が当選を確実にした。駐米大使を務めた藤崎一郎氏はバイデン政権の対中政策について、「これまでの強硬姿勢が続く」と決めつけてはならないと警鐘を鳴らす。「米国は『変わる国』。振り子は再び逆に振れる可能性がある」

(聞き手 森 永輔)

バイデン副大統領(左)と藤崎駐米大使(いずれも当時)(写真提供:藤崎一郎)

米大統領選で民主党のジョー・バイデン候補が当選を確実にしました。この選挙とバイデン政権の展望について、藤崎さんはどこに注目しますか。

藤崎:選挙については、ドナルド・トランプ大統領が予想外の強さを発揮したことに注目しました。バイデン政権の展望としては、外交政策において大きな転換が見込まれるとみています。ただ議会の上院は共和党がわずかでも優位になる可能性があり、その場合、政権は制約されます。

藤崎一郎(ふじさき・いちろう)
元駐米大使、中曽根平和研究所理事長。1947年生まれ。1969年外務省に入省。駐米公使、北米局長、外務審議官、駐ジュネーブ国際機関代表部大使(国連・WTO)などを経て、2008年に駐米大使。2018年から現職。(写真:加藤 康)

 新型コロナウイルスの感染拡大への初動で失敗したり、個人として疑問符のつく振る舞いが数多くあったりしたにもかかわらず、事前の世論調査を裏切って善戦しました。大方の調査は、民主党のバイデン候補がもっと楽に勝つことを示唆していたと思います。

 その背景にあるのは、「トランプ的なもの」が国を二分する力を持っている現実です。これは、米国という国の根幹に関わる問題です。トランプ的なものが持つ力は特に地方で顕著です。バイデン氏は勝利を手にしましたが、その得票は大都市圏に偏っています。米国には約3000の郡があります。ビル・クリントン大統領時代は大統領選挙で約半数の1500くらいを民主党が獲得していましたが、最近は約5分の1しか取れなくなっています。

 トランプ的なものとは何か。それは、雇用の喪失と治安の悪化をめぐって白人が感じる恐怖と不安です。トランプ大統領はこの恐怖と不安を共有し、それと戦う人物として登場しました。自助、自由の代表で、医療保険導入などで公助、公平を主張する民主党と対立する形をつくりました。

 さらに考えを進めれば、この恐怖と不安の根源は米国における人口動態の変化にあります。外国で生まれて米国で暮らす人の数は1960年には860万人でした。これが2015年には4500万人に拡大し、2065年には7800万人に達すると見込まれています。この変化が、米国で長く暮らす白人層に非常に大きなプレッシャーを与えているのです。

 自分が苦しい状態にあるときに、他人に対して寛容に振る舞うのは容易なことではありません。それゆえ、「国際関係において米国の負担が重すぎる」「移民に対する政策が甘すぎる」といったトランプ大統領の主張に多くのプアホワイトが共感したのです。