第20回党大会に臨む習近平国家主席(写真:AFP/アフロ)
第20回党大会に臨む習近平国家主席(写真:AFP/アフロ)
中国共産党が10月16日、第20回党大会を開催し、習近平(シー・ジンピン)国家主席が活動報告を行った。学習院大学の江藤名保子教授は、(1)社会主義への回帰、(2)分配と成長の両立、(3)秩序と価値観をめぐる米国との競争――に注目する。台湾有事をめぐる発言に注目が集まったが、それだけでは中国の将来を見誤りかねない。

(聞き手:森 永輔)

中国の習国家主席が10月16日、第20回中国共産党大会に出席し、活動報告を行いました。江藤さんはこれのどこに注目しましたか。

江藤名保子・学習院大学教授(以下、江藤氏):大きく3つあります。第1は、習国家主席が「マルクス主義の中国化・時代化」という表現を使ったことです。同国家主席の名を冠した思想の名称として使われてきた「新時代の中国の特色ある社会主義」とほぼ同義で用いました。習近平思想は「マルクス主義の中国化・時代化」を経て出来上がった革新的理論と位置づけているわけです。

江藤 名保子(えとう・なおこ)氏
江藤 名保子(えとう・なおこ)氏
学習院大学教授。専門は中国政治、日中関係、東アジア国際政治。慶応義塾大学法学部を卒業。米スタンフォード大学大学院で国際政治研究科修了、慶応義塾大学法学研究科後期博士課程単位取得退学。法学博士。著書に『日中関係史1972-2012 Ⅰ政治篇』『現代中国政治外交の原点』『外交証言録沖縄返還・日中国交正常化・日米「密約」』など

習国家主席が進める「社会主義」への回帰

 中国共産党は、ソ連から伝わったマルクス・レーニン主義を中国の国情に合わせることに1930年代から力を入れてきました。その1つの成果が毛沢東思想です。

 マルクス主義を取り入れ、それを中国の国情に合わせた(中国化した)ものが毛沢東思想。それをさらに進め、中国化に加えて時代に合わせて発展したものが習近平思想だ、というわけです。すなわち、習国家主席は今後、社会主義への回帰に力を入れていくと考えます。

 習近平思想を毛沢東思想と並ぶ存在としてどのように党規約に書き込むのか。そのヒントも活動報告の中の表現に表れています。「我々」が新時代の中国の特色ある社会主義をつくった、としました。つまり、作り手は中国共産党です。他方、報告において習国家主席は同党の「リーダー」として団結を呼びかけました。よって、「(中国共産党が)みなで作った」思想を「習近平総書記が率いている」というロジックで党規約に書き込みことになるでしょう。

習国家主席はなぜ社会主義に強くこだわるのでしょうか。

江藤氏:それは習氏の政治信条だからです。習氏は、中国共産党が中国を統治すべきだと信じており、それが統治においてもっとも優先されています。そしておそらく習氏の主観では、共産党による統治はもっと社会主義に基づいた統治であるべきなのです。

 なぜ社会主義による統治なのか。この点は、習国家主席の青少年期の経験に基づくと考えます。毛沢東が社会主義を推し進める中で頭角を現わし、リーダーの地位を獲得してきました。その成功体験からこのような認識を得たのだと思います。

今の中国共産党の中で、習国家主席と同様の信条を抱く人は多いのでしょうか。

江藤氏:必ずしも皆が同じではないと思いますが、今の共産党は左派が牛耳っていると言っても過言ではありません。またポスト胡錦濤(フー・ジンタオ)の座を習国家主席と争っていた、習氏と同世代の薄熙来氏も同様の認識を抱いていました。

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