サイバー時代にシギントは欠かせないが、オシントの重要性も高まっている(写真:ロイター/アフロ)
サイバー時代にシギントは欠かせないが、オシントの重要性も高まっている(写真:ロイター/アフロ)

岸田文雄内閣は今年末に国家安全保障戦略を改定する。現在の戦略を決定した2013年から約10年。この間に、陸・海・空に加えて、宇宙・サイバー・電磁波という新領域の重要性が大きく増した。この流れは、インテリジェンスが果たす役割も高める。インテリジェンス研究の第一人者である小谷賢日本大学教授に聞いた。

(聞き手:森 永輔)

小谷さんは、インテリジェンスの観点から、国家安全保障戦略に何を盛り込むべきだと考えますか。

小谷賢日本大学教授(以下、小谷氏):今の日本が直面する戦略的課題として「経済安全保障」「台湾有事」「ファイブ・アイズへの加盟」の3つが挙げられます。これらの課題を乗り切るべく、インテリジェンスの能力を高める必要があると国家安全保障戦略で強調すべきです。具体的にはセキュリティー・クリアランス(適格評価)の導入や偽情報対策の向上、サイバーセキュリティー能力の強化が求められます。

小谷賢(こたに・けん)
小谷賢(こたに・けん)
日本大学教授。1973年生まれ。立命館大学を卒業。英ロンドン大学キングス・カレッジ大学院で修士課程を修了したのち、京都大学大学院で博士課程を修了(人間・環境学博士)。英国王立統合軍防衛安保問題研究所(RUSI)客員研究員、防衛省防衛研究所戦史研究センター主任研究員、防衛大学校講師などを歴任。2016年から現職。近著に『日本インテリジェンス史』など(写真:菊池くらげ、以下同)

最先端のデュアルユース技術を守れ

 まずは経済安全保障についてお話ししましょう。技術のデュアルユース化が進み、軍事用と民生用の境がなくなりました。数多くの民生技術が防衛装備の開発に利用されています。さらに言えば、技術を開発した本人でさえ、その技術が防衛用途に使えるのかどうか分からない状況になっています。

 例えば、日本企業が民生用に開発した特殊磁石が、パキスタンが核兵器を開発するために使用したウラン遠心分離機に使われていた、という事例があります。開発者が想像したこともない用途でした。

 このため政府は、民間企業がどのような技術を保有・開発しているかの情報を集めてデータベースを構築し、それを防衛力強化に生かすとともに、流出しないよう守る必要が生じています。

 他方、研究開発の分野は技術を窃取しようとする事件が増えています。日本企業で働く外国籍の研究者などが資料を持ち出したり、データベースにアクセスするIDやパスワードを聞き出したりしようとする。こうした行為を防ぎ、取り締まる体制を強化しなければなりません。

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