
米国で10月7日、副大統領候補によるテレビ討論会が実施された。駐米大使を務めた藤崎一郎・中曽根平和研究所理事長は、ハリス氏は「アングリーな黒人女性を表に出すことなく民主党陣営を安心させた」と評価する。そして、「トランプ政権は対中貿易戦争に負けた」という同氏の刺激的な発言については……
(聞き手 森 永輔)
共和党のマイク・ペンス副大統領と民主党のカマラ・ハリス上院議員、2人の副大統領候補によるテレビ討論会が実施されました。9月末に行われた大統領候補同士の討論会が罵り合いに終始したのに比べて、今回は「討論」と呼べるものになりました。藤崎さんはどのように評価しましたか。
藤崎:一言で言えば、引き分けでした。民主党のジョー・バイデン大統領候補の優勢で進んでいる大統領選の今後の動向に影響を及ぼすことはないという意味ではハリス氏に軍配が上がるかもしれません。
ハリス氏もペンス氏も、それぞれの陣営を安心させることができたと思います。ただし、それ以上のものはありませんでした。
どちらも自陣営を安心させた

元駐米大使、中曽根平和研究所理事長。1947年生まれ。1969年外務省に入省。駐米公使、北米局長、外務審議官、駐ジュネーブ国際機関代表部大使(国連・WTO)などを経て、2008年に駐米大使。2018年から現職。(写真:加藤 康)
「安心」ですか。
藤崎:そうです。ハリス氏は有色人種の女性で初めての副大統領候補です。これは非常に価値のあることですが、その一方で、懸念も生んでいました。「黒人」と「女性」、どちらも米国の歴史の中で差別を受けてきた存在です。それゆえ、ハリス氏が「黒人」「女性」を前面に出し、その怒りを強調する可能性があったからです。
差別はあってはならないことですし、それに対する怒りは正当なものですが、強く出しすぎると反発を招きます。これが最大の注目点でハリス氏は上手くクリアしました。
他方、ペンス氏は、答えることが難しい質問に答えず、逃げ切りました。これが共和党陣営を安心させました。
答えるのが難しい質問とはどの質問ですか。
藤崎:主要なものは次の2つです。第1は「大統領に不測の事態が起きたときは、副大統領が代理を務めます。それについて大統領候補と話をしたことがあるか」との問いです。第2は「選挙結果が出たら、それに従うか」。いずれも、ペンス氏の回答がドナルド・トランプ大統領の頭の中にある答えに反するものであれば、同氏の怒りを買います。
不測の事態について、具体的な例を挙げれば、「こいつは自分の後釜を狙っている」とトランプ大統領に勘繰られる恐れがありますね。選挙結果についても、「受け入れる」と答えればトランプ大統領の発言と整合性を欠きます。トランプ大統領はこれまで「郵便投票は不正の温床」と発言しており、その結果に懐疑的な姿勢を崩していません。
今回の討論会では、ハリス氏の副大統領としての資質が注目点として挙げられていました。バイデン氏が77歳と高齢であることから、不測の事態が起きたときに大統領の代理を務める可能性が低くないからです。ハリス氏の資質をどう評価しましたか。
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