北朝鮮が10月4日に発射した弾道ミサイルの飛距離は過去最高の約4600km。北朝鮮版グアム・キラーを発射した意図はどこにあるのか(写真:Penta Press/アフロ)
北朝鮮が10月4日に発射した弾道ミサイルの飛距離は過去最高の約4600km。北朝鮮版グアム・キラーを発射した意図はどこにあるのか(写真:Penta Press/アフロ)

北朝鮮が10月4日、弾道ミサイルを発射した。7回目の「日本上空通過」となったこのミサイルの飛距離は、過去最高の約4600km。米インド・太平洋軍の重要拠点であるグアムを十分射程に収める。北朝鮮の意図はどこにあるのか。朝鮮半島研究の重鎮である武貞秀士氏は、金正恩(キム・ジョンウン)総書記の実妹・与正(ヨジョン)氏の権力掌握が重要な要素であるとみる。

(聞き手:森 永輔)

武貞さんは、今回の北朝鮮のミサイル実験のどこに注目しましたか。

武貞秀士・拓殖大学大学院客員教授(以下、武貞氏):今回の弾道ミサイル発射は、その位置づけを3つの視点から見るべきだと考えます。

武貞 秀士(たけさだ・ひでし)氏
武貞 秀士(たけさだ・ひでし)氏
拓殖大学大学院客員教授 専門は朝鮮半島の軍事・国際関係論。慶應義塾大学大学院博士課程単位取得退学。韓国延世大学韓国語学堂卒業。防衛省防衛研究所に教官として36年間勤務。2011年、統括研究官を最後に防衛省退職。韓国延世大学国際学部教授を経て現職。著書に『韓国はどれほど日本が嫌いか』(PHP研究所)、『防衛庁教官の北朝鮮深層分析』(KKベストセラーズ)、『恐るべき戦略家・金正日』(PHP研究所)など。

 第1は、2021年1月の朝鮮労働党大会で定めた「国防科学発展および兵器システム開発5カ年計画」にのっとったものであること。この計画で、ミサイル開発に関する以下の5つの重点項目を打ち出しました。(1)超大型の核弾頭をつくる、(2)射程1万5000kmのICBM(大陸間弾道ミサイル)の精度を高める、(3)固体燃料と誘導技術を改善する、(4)極超音速滑空弾の開発(ロシア製技術の導入)、(5)排水量3000トン級の原子力潜水艦の開発とこれに搭載するSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の開発――です。

今回のミサイルの飛行距離は約4600km。ICBMではなく、中距離弾道ミサイル(IRBM)「火星12」と同型のものとの見方があります。

武貞氏:確かに、飛距離はICBMとは言えませんが、大気圏に再突入するのに必要な技術や誘導技術は共通です。また固体燃料への移行も、北朝鮮が開発するIRBMとICBMが共通して抱える課題です。なので、今回の実験はICBMの開発にも役立つと言えます。

北朝鮮がこれまで発射してきた中距離以上の射程を持つミサイル、「ムスダン」「火星」「テポドン」はいずれも液体燃料でした。これを、固体燃料にすることで、発射準備にかかる時間を短縮できるようになりますね。

 飛行距離について、米領グアムまで確実に届くと証明したことが注目されています。ピョンヤンとグアムとの距離は約3400km。4600kmはこれを大幅に上回ります。

武貞氏:これは重要な点です。朝鮮半島有事が仮に起これば、米軍はグアム基地を拠点の1つにして韓国を支援します。そのグアムを攻撃する能力があることを証明したわけですから。

 北朝鮮はグアムを攻撃目標として重視しています。2017年にも、北朝鮮の国営・朝鮮中央通信(KCNA)が、朝鮮人民軍が「中長距離弾道ミサイル火星12で、グアム周辺を炎で包み込むための作戦を慎重に検討している」と発信する局面がありました。当時、北朝鮮はICBM級弾道ミサイルの実験を頻繁に実施。これに対し、トランプ米大統領(当時)が「北朝鮮はこれ以上、米国を脅さないほうがいい。世界が見たこともない炎と激怒で対抗する」と怒りをあらわに。こうした応酬の過程でのことでした。

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