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トランプ大統領とバイデン氏が第1回のテレビ討論を行った。米国政治に詳しい中林美恵子・早稲田大学教授は、結果を50対50と評価する。バイデン氏は、トランプ大統領と丁々発止のやり取りができるか不安視され、期待値が低かった。にもかかわらず善戦したため、五分五分の結果となったとみる。政策に関わる議論が発展することはなかったが、トランプ大統領の戦術は「中国」と「経済」にありそうだ。

(聞き手 森 永輔)

第1回のテレビ討論は批判合戦に終始し、政策をめぐる議論はほとんど行われなかった(写真:AP/アフロ)

中林さんは、今回の討論会でどこに注目しましたか。

中林:米国はいま、新型コロナ危機を受けてその経済が大きく傷んでいます。

中林美恵子(なかばやし・みえこ)
早稲田大学教授。専門は米国政治。米ワシントン州立大学修士(政治学)、大阪大学で博士(国際公共政策)を取得。元衆議院議員。経済産業研究所研究員や財務省財政制度等審議会委員など歴任。米国在住14年のうち10年間は米連邦議会上院予算委員会の連邦公務員(共和党)として国家予算編成を担った。(写真:菊池くらげ)

政府の支援金が減少し一時解雇が増加し続けている、と報道されていますね。

中林:なので、経済復興政策をめぐる論議を期待していたのですが、そうはなりませんでした。この点は非常に残念でした。

 その原因の1つはドナルド・トランプ米大統領が、ジョー・バイデン民主党候補の発言に割り込み、茶々を入れ続けたからです。

バイデン氏が善戦して評価は50対50

トランプ大統領対バイデン氏。どちらが優勢だったと評価しますか。

中林:ほぼ互角だったと思います。50点対50点。

バイデン氏は、トランプ大統領と丁々発止でやり合うことができるか懸念されていました。ただでさえトランプ大統領は、テレビ番組の司会者として人気を集めた実績があり、テレビ慣れしている。加えてバイデン氏には健康不安があります。

 それを大きなミスを犯すことなく乗り切ることができました。トランプ大統領の方をほとんど見ず、カメラに視線を向ける時間を多く取っていました。カメラの向こうにいる支持者や有権者に意識を向けるよう心掛けていたのでしょう。トランプ大統領が発した挑発的な質問にも、そのすべてに応じることはありませんでした。この対応は成功だったと思います。

 いくつか見事な切り返しもありました。「グリーン・ニュー・ディールはない」*と発言してトランプ大統領に攻め口を与えたかと思ったら、「バイデンプランでやる」と。「Would you shut up, man?(こいつ、だまらないか)」という発言も「ガッツを発揮したな」との印象を受けました。

*:「グリーン・ニュー・ディール」は、気候変動対策を講じることで経済の復興を図る政策。世界恐慌の後にフランクリン・ルーズベルト米大統領(当時)が実行した「ニュー・ディール」にかけたネーミング。高速道路に電気自動車用充電ステーションを50万カ所設置することなどを提案し、これが雇用拡大につながると主張している

 ただし、トランプ大統領をしのいだわけではありません。バイデン氏に対する期待値が低かったがゆえに五部と評価できるのです。司会を務めたFOXニュースのキャスター、クリス・ウォレス氏に助けられた部分もありました。同氏は、発言をやめないトランプ大統領を幾度となく制していました。もし放っておかれたら、バイデン氏は苦しかったのではないでしょうか。