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米国のポンペオ国務長官は8月、米国のネットワークから中国企業の影響を排除する「クリーンネットワーク」を拡充する意向を明らかにした(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

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ここまでエコノミック・ステイトクラフトのありようをご説明いただきました。米政府が中国に対して厳しい姿勢を示す背景は理解できますが、その具体的な方策は好ましいものでしょうか。自由を掲げ中国を批判する米政府が、民間企業のビジネスの自由を縛っているわけです。「戦争」なのだから、勝つためには何でもやるということでしょうか。

國分:私は、次のように理解しています――経済安全保障政策によって「盾(シールド)」を立てる。米国は自由主義の旗を降ろしたわけではありません。自由ではあるけれど、自由を守るために順守しなければならないルールを明文化し、これを盾にして中国に対峙する、シールドエコノミーを展開し始めたと認識すべきです。

自由を守るため、ルールという盾を立てる

國分俊史(こくぶん・としふみ)
多摩大学大学院教授。同大ルール形成戦略研究所所長。専門は、安全保障経済政策を起点とするルール形成戦略。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。A.T.カーニーのプリンシパルや米系会計ファームのバイスプレジデントパートナーを歴任。ルール形成戦略議員連盟のアドバイザーを務める。主著に『エコノミック・ステイトクラフト 経済安全保障の戦い』など。(写真:加藤 康)

 これまでは、自由主義国が共有する常識に依存してきました。例えば、ある国の大学や企業がイノベーションを起こしたら、その価値に敬意を払い、権利を尊重するという常識です。しかし、中国は人民解放軍の軍人が身分を偽って米大学に入り込み、研究に従事して、データを入手したりする事態が頻発しています。大学の研究室に資金を提供して、米国内で実施している研究環境と全く同じものを中国国内に作るシャドーラボを通じた研究成果の入手が米国でも注目され始めています。

 常識破りは研究分野に限りません。例えば証券市場では、上場企業が同じ基準で等しく情報を開示するのが常識です。しかし、例えば一部の中国企業が、中国市場のビジネス情報を開示しないまま、米ニューヨーク証券取引所に上場するケースがある。極端なことを言えば、こうした企業が南シナ海で埋め立てた人工島を資産として所有していても、株主や市場はそれを知ることができません。人民解放軍に代わって、利益の出ている企業の予算で潜水艦を購入することだってできてしまうのです。このため米政府は「イクイタブルアクト」という法律を制定して、3年以内に中国国内の事業実績の詳細な情報開示と、それができない場合の上場廃止を定めました。

 中国がこれらの常識を受け入れる気配はありません。ならば、自由主義国が生み出したイノベーションや原則を自らの力で守る必要がある。米政府は自由をかみ砕いて具体化し、明文化するルール形成に取り組み始めたのです。「ここまで自由とは何かを落とし込まないと、中国共産党政権は分からないのだ」と結論付けた。マイク・ペンス副大統領やマイク・ポンペオ国務長官が演説で訴えたのは、こういうことです(前回を参照)。