防衛省が9月24日、配備計画の停止が決まったイージス・アショアの代替案として、海上プラットフォームを使用する案を提示した。これに対し、1980年代にイージス艦の導入に関わり、海上自衛隊のミサイル防衛体制の構築までをリードした経験を持つ香田洋二氏は、レーダーとイージスシステムを選定し直すよう訴える。「米海軍が採用したのと同じレーダーとイージスシステムを採用すべきだ」

(聞き手:森 永輔)

7隻目のイージス艦「まや」。「はぐろ」が2021年に就役すると8隻体制が整う。それでも、かかる負荷は重く、ミサイル防衛に専従するわけにはいかない(写真:アフロ)
7隻目のイージス艦「まや」。「はぐろ」が2021年に就役すると8隻体制が整う。それでも、かかる負荷は重く、ミサイル防衛に専従するわけにはいかない(写真:アフロ)

河野太郎防衛相(当時)が6月15日に停止を表明したイージス・アショアについて、防衛省が9月24日、自民・公明党に対し代替案を示しました。代替案はいずれも、洋上のプラットフォーム上に配備するもの。プラットフォームは(1)海上自衛隊の護衛艦、(2)民間の商船、(3)石油採掘のためのやぐらのような海上リグです。香田さんはどの案が適切と考えますか。

香田:私はいずれの案も反対です。防衛省が選定した現行のレーダーとイージスシステム*を搭載する前提であるように見受けられるからです。今回の見直しを契機に、イージス・アショアに使用するレーダーとイージスシステムの選定をやり直すべきだと考えます。その上で、洋上案に、改めて陸上配備を選択肢に加えて検討するのが筋でしょう。

*:米海軍が空母艦隊の防空のために開発した技術システム。レーダーが探知したミサイルや戦闘機の情報を基に、ミサイルを発射し迎撃する
<span class="fontBold">香田洋二(こうだ・ようじ)</span></br />海上自衛隊で自衛艦隊司令官(海将)を務めた。1949年生まれ。72年に防衛大学校を卒業し、海自に入隊。92年に米海軍大学指揮課程を修了。統合幕僚会議事務局長や佐世保地方総監などを歴任。著書に『賛成・反対を言う前の集団的自衛権入門』など。(写真:大槻純一)
香田洋二(こうだ・ようじ)
海上自衛隊で自衛艦隊司令官(海将)を務めた。1949年生まれ。72年に防衛大学校を卒業し、海自に入隊。92年に米海軍大学指揮課程を修了。統合幕僚会議事務局長や佐世保地方総監などを歴任。著書に『賛成・反対を言う前の集団的自衛権入門』など。(写真:大槻純一)

米海軍と同じ組み合わせのイージスを採用すべきだ

防衛省が契約しているレーダーは米ロッキード・マーチンが開発する「SPY-7」、イージスシステムは「ベースライン9(BL9)」と呼ばれるバージョンですね。

香田:SPY-7とBL9の組み合わせで利用するのは、日本のイージス・アショアだけです。このため開発とテストに伴う負担を日本が単独で負うことになります。必要なテストは日本が独自に実施する必要がある。無事に運用を始められたとしても、その後に発生する運用上の不具合やソフトウエアのバグの発見や改修に関して他国の協力を得ることもできません。すべて自前負担になります。

 よって私は、レーダーに米レイセオン・テクノロジーズが開発する「SPY-6」、イージスシステムに「BL10」を選択するのがベターと考えます。この組み合わせは米海軍が2013年に採用し、約50隻の艦船(新造艦と一部の改修艦)に装備する計画です。また、欧州に既に配備されているイージス・アショア2基もこの組み合わせに改修する予定です。こちらならば、この約50隻の艦船などの運用実績やバグに関する情報を共有し、米国主導で各国が協力した体制による不具合の改修と能力向上を迅速かつスムーズに行うことができます。