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多摩大学ルール形成戦略研究所の國分俊史所長は、米中が戦う今回の経済戦争は、これまでの経済摩擦とは次元が異なると見る。理由の第1は米国の意図だ。「中国共産党の態度を転換させることにある」(國分氏)。理由の第2は、軍事戦争を選択肢に入れず、経済だけの戦争で決着をつけようとしていること。「それゆえ、その手段は攻撃的かつ破壊的なものになる」(同)

(聞き手:森 永輔)

米国のペンス副大統領が2018年10月に行った演説が、中国の共産党体制を問題視する嚆矢となった(写真:AP/アフロ)

國分さんは、米国と中国が「エコノミック・ステイトクラフト」応酬の時代に入ったとの見方をされています。エコノミック・ステイトクラフトとは、どういうものですか。

國分俊史(こくぶん・としふみ)
多摩大学大学院教授。同大ルール形成戦略研究所所長。専門は、安全保障経済政策を起点とするルール形成戦略。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。A.T.カーニーのプリンシパルや米系会計ファームのバイスプレジデントパートナーを歴任。ルール形成戦略議員連盟のアドバイザーを務める。主著に『エコノミック・ステイトクラフト 経済安全保障の戦い』など。(写真:加藤 康)

國分:エコノミック・ステイトクラフトとは「経済ツールを活用して地政学的国益を追求する手段」を言います。最近注目を集めている典型例は、トランプ米政権が華為技術(ファーウェイ)に科した制裁です。国防権限法を2019年8月に施行し、米政府機関に対し、ファーウェイをはじめとする中国ハイテク企業5社の機器などの調達を禁止しました。これに加えて、米国製のソフトウエアを使って半導体の回路設計を行っている企業にまで制裁の範囲が広がり、範囲の拡大速度が加速し始めました。

 米国がエコノミック・ステイトクラフトに着手したのは、中国が先に着手したからです。自らの意向に沿わない行動があると、経済ツールを使って報復を繰り返しました。一例は、中国国内で運営する韓国ロッテマートに対する2017年措置です。同社は、在韓米軍が地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)の導入を決めると、傘下のゴルフ場を提供しました。これに対する報復として中国当局は、中国国内で展開する同社の店舗に対し、消防法違反などを理由に営業停止を命じました。

ロッテマートはこれで事業運営が難しくなり、事実上の撤退を余儀なくされました。2010年に尖閣諸島周辺で中国漁船衝突事件が起きた際に、日本向けのレアアース輸出を一時停止したことも思い出されます。

 ただ「経済ツールを活用して地政学的国益を追求する」行為は、これまでにもいろいろ行われてきました。例えば米国は、2015年にイランとの核合意*がなされるまで、イランの銀行と取引する外国金融機関と米金融機関とのドル決済を禁止する制裁を科していました。こうした取り組みとエコノミック・ステイトクラフトは何が違うのでしょうか。

*:米国は2018年5月に離脱している