台湾有事が国際社会の耳目を集める中、日本は何をすべきか。東京外国語大学の小笠原欣幸教授は「中国が台湾に武力行使するのを容認しない」と言い続けるべきだと説く。ただし、中国は「日本は1972年の日中共同声明で、1つの中国を認めた。中国による台湾統一は内政問題である。日本はこれに干渉する権利を持たない」と主張する。この問題をどう考えるべきなのか。

(聞き手:森 永輔)

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中国は「日本は1972年の日中共同声明で、1つの中国を認めた。中国による台湾統一は内政問題である。日本はこれに干渉する権利を持たない」と主張する(写真:Legacy Images/アフロ)
中国は「日本は1972年の日中共同声明で、1つの中国を認めた。中国による台湾統一は内政問題である。日本はこれに干渉する権利を持たない」と主張する(写真:Legacy Images/アフロ)

前回までのお話をふまえて、日本はいま何をすべきでしょうか。

小笠原:日本は台湾の状況を傍観してはいけません。4月16日の日米首脳会談で行ったように「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調」し続けることが肝要です。そして、武力行使は絶対に容認しないという強い意志を中国に示す。さらに、この意志に同調するよう国際社会に呼びかけることも重要です。

<span class="fontBold">小笠原欣幸(おがさわら・よしゆき)</span><br />東京外国語大学教授。専門は比較政治学、台湾研究。1958年生まれ。1981年、一橋大学社会学部卒業。1986年、同大学大学院社会学研究科博士課程修了(社会学博士)。東京外国語大学の専任講師、助教授を経て、2020年から現職。この間に、英シェフィールド大学や台湾国立政治大学で客員教授を歴任。 主な著書に「中国の対台湾政策の展開―江沢民から胡錦濤へ」(『膨張する中国の対外関係』に収録)、『台湾総統選挙』など。 (写真:加藤康、以下同)
小笠原欣幸(おがさわら・よしゆき)
東京外国語大学教授。専門は比較政治学、台湾研究。1958年生まれ。1981年、一橋大学社会学部卒業。1986年、同大学大学院社会学研究科博士課程修了(社会学博士)。東京外国語大学の専任講師、助教授を経て、2020年から現職。この間に、英シェフィールド大学や台湾国立政治大学で客員教授を歴任。 主な著書に「中国の対台湾政策の展開―江沢民から胡錦濤へ」(『膨張する中国の対外関係』に収録)、『台湾総統選挙』など。 (写真:加藤康、以下同)

6月13日に閉会した主要7カ国(G7)首脳会議で、日米両国は「台湾海峡の平和と安定の重要性」の文言を首脳宣言に盛り込むことができました。

小笠原:そうですね。こうした努力を続け広げていくことが重要です。個々の声は弱くとも集まれば中国にとって一定の圧力になります。「台湾に武力行使すれば、その代償は非常に大きい」と中国に示し、抑止を機能させることが必要です。傍観していては、台湾海峡の平和を維持することはできません。

「武力行使は絶対に容認しない」を言い続けよ

「中国が台湾に武力行使するのを容認しない」と日本が発言すると、中国は次のように主張します。「日本は1972年の日中共同声明*で、1つの中国を認めた。中国による台湾統一は内政問題である。日本はこれに干渉する権利を持たない」

*:1972年の国交正常化交渉の成果としてまとめられた日中の合意文書

 日米首脳会談の共同声明にも以下のように反発しました。

駐日中国大使館報道官、日米首脳会談および共同声明における中国関連の内容について記者の質問に答える

・中国に対し、言われ無き指摘をし、中国の内政に乱暴に干渉し、中国の領土主権を侵犯したことに対し、中国側は強い不満と断固たる反対を表します。

・日米同盟は特殊な二国間枠組みとして、第三国を標的にすべきでなく、ましては(※原文のまま)第三国の利益を損害してはなりません。日米は冷戦思考にしがみつき、排他的な小さいサークルを作り上げ、政治的対立を煽り立てることは完全に時代の流れに逆走する動きで、地域国家が平和を求め、発展を図り、協力を推し進める期待に背いてしまい、その企みは必ず成り立ちません。

(以上、抜粋)

日本は、中国が台湾に武力行使するのを容認しないと発言する立場にないのでしょうか。

小笠原:確かに慎重な発言が必要です。しかし、日中共同声明は、中国が台湾を武力で統一する行為を承諾していません。市民に死傷者が出れば中国の国内であろうとどこであろうと人道問題です。

 加えて、日中共同声明から50年にわたる日台間の交流の積み重ねがあります。日本との人的・経済的つながりが深い台湾で中国の武力行使があれば日本も大きな影響を受けます。この2点から、「武力行使は絶対に容認しない」と日本が訴えることは日本国家として当然だと考えます。同時に、日本は「日中関係を重視している」というメッセージも出し続けるべきです。

続きを読む 2/2 日中共同声明「ポツダム条項」が意味すること

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