米英豪の3カ国が新たな安全保障協力の枠組み「AUKUS」で合意した。第1弾として、オーストラリアの原子力潜水艦開発を米英が支援する。対中軍事作戦の幅を広げられるメリットは大きい。だが、米国は欧州やアジア諸国への説明を怠り、反発を招いた。海上自衛隊で自衛艦隊司令官を務めた香田洋二氏は「AUKUSが英米系の情報ネットワーク『ファイブアイズ』のアジア支店で、アングロサクソンの見方に偏っていることに原因がある」とみる。

(聞き手:森 永輔)

オーストラリアはフランスへの潜水艦発注を破棄し、米英とともに原子力潜水艦の開発に取り組む(代表撮影/AP/アフロ)
オーストラリアはフランスへの潜水艦発注を破棄し、米英とともに原子力潜水艦の開発に取り組む(代表撮影/AP/アフロ)

米国と英国、オーストラリアが9月15日、新たな安全保障協力の枠組み「AUKUS」*を設置することで合意したと明らかにしました。具体的な協力の第1弾として、オーストラリアが新たに原子力潜水艦を開発する計画に、米英両国が協力する予定です。これをどう評価しますか。

*=3カ国の略称を並べた

 オーストラリアの潜水艦開発は2015~16年、日本、ドイツ、フランスの3陣営が争って、フランスのDCNS(当時。現在の仏政府系造船会社ナバル・グループ)が受注した案件です。この開発が難航していました。オーストラリアは今回、通常動力の潜水艦から原子力推進の潜水艦に切り替えて、開発を仕切り直す意向です。

香田洋二・元自衛艦隊司令官(以下、香田):米英豪による原子力潜水艦の開発協力は3者それぞれに利益をもたらすものです。

泥沼の開発から抜け出したいオーストラリア

 まずオーストラリアにとって。ご指摘のように、同国とナバル・グループによる次期潜水艦開発は難航していました。これには大きく2つの理由があります。

<span class="fontBold">香田洋二(こうだ・ようじ)</span><br />海上自衛隊で自衛艦隊司令官(海将)を務めた。1949年生まれ。72年に防衛大学校を卒業し、海自に入隊。92年に米海軍大学指揮過程を終了。統合幕僚会議事務局長や佐世保地方総監などを歴任。著書に『賛成・反対を言う前の集団的自衛権入門』など(写真:大槻純一)
香田洋二(こうだ・ようじ)
海上自衛隊で自衛艦隊司令官(海将)を務めた。1949年生まれ。72年に防衛大学校を卒業し、海自に入隊。92年に米海軍大学指揮過程を終了。統合幕僚会議事務局長や佐世保地方総監などを歴任。著書に『賛成・反対を言う前の集団的自衛権入門』など(写真:大槻純一)

 第1は、オーストラリアが求める潜水艦が野心的なもので、その要求性能が通常動力潜水艦の極限に近い高さであったことです。要求性能は、例えば航続距離は日本の主力潜水艦である「そうりゅう型」の2倍。「トマホーク」級の巡航ミサイルのほか、さまざまな対艦ミサイルや魚雷を大量に装備できること。指揮管制システムも最先端のものを求めていました。私がその要求性能を聞いたときの第1印象は「これは本来なら原子力潜水艦で実現する仕様だ」というものでした。

 オーストラリアは「ニュークリア・フリー(核なし)」を基本政策に据えており、原子力発電所も運用していません。よって2015~16年の時点では、原子力潜水艦を導入する選択肢はありませんでした。オーストラリアはこうした仕様の通常動力潜水艦を500億豪ドルの予算と20年の時間をかけて12隻整える計画を進めていたのです。

続きを読む 2/5 過大な仕様を、アウェーで実現する困難

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