中国が台湾本島に武力攻撃することは考えづらい。しかし、台湾の離島に対する攻撃では、識者の意見が分かれる。東京外国語大学の小笠原欣幸教授は東沙諸島は「あり得る」と考える。エスカレートの度合いを中国がコントロールできるほか、もう1つ大きな理由がある。果たして、それは何か。

(聞き手:森 永輔)

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演習に取り組む台湾の兵士(写真:ロイター/アフロ)
演習に取り組む台湾の兵士(写真:ロイター/アフロ)

小笠原さんは台湾有事の蓋然性をどうみていますか。

小笠原:それほど高いとは考えていません。

 米国が介入しないという前提で、かつ、中国が「どんな犠牲を払ってでも台湾を統一する」と考えるならば、台湾上陸作戦を実行するのに必要な軍事力はすでに保有しています。

台湾有事が現実となる蓋然性は小さいが…

<span class="fontBold">小笠原欣幸(おがさわら・よしゆき)</span><br />東京外国語大学教授。専門は比較政治学、台湾研究。1958年生まれ。1981年、一橋大学社会学部卒業。1986年、同大学大学院社会学研究科博士課程修了(社会学博士)。東京外国語大学の専任講師、助教授を経て、2020年から現職。この間に、英シェフィールド大学や台湾国立政治大学で客員教授を歴任。 主な著書に「中国の対台湾政策の展開―江沢民から胡錦濤へ」(『膨張する中国の対外関係』に収録)、『台湾総統選挙』など。 (写真:加藤康、以下同)
小笠原欣幸(おがさわら・よしゆき)
東京外国語大学教授。専門は比較政治学、台湾研究。1958年生まれ。1981年、一橋大学社会学部卒業。1986年、同大学大学院社会学研究科博士課程修了(社会学博士)。東京外国語大学の専任講師、助教授を経て、2020年から現職。この間に、英シェフィールド大学や台湾国立政治大学で客員教授を歴任。 主な著書に「中国の対台湾政策の展開―江沢民から胡錦濤へ」(『膨張する中国の対外関係』に収録)、『台湾総統選挙』など。 (写真:加藤康、以下同)

 しかし、米国が介入する可能性は存在します。そうなれば大戦争になり中国にも多大な被害が及びます。台湾軍が応戦すれば中国人民解放軍も大きな損害を受けるのは避けられません。一人っ子政策の影響で、兵士の命の価値は高まっています。米国だけでなく日本との関係も悪化し、中国経済は大きな負の影響を受けるでしょう。

 台湾を焼け野原にしてしまえば、統一後の統治において台湾の民心が付いてこないのは疑いありません。さらに、中国の人々も「共産党政権に従っていれば素晴らしい将来がある」とは思えなくなるでしょう。国民の支持が、習近平政権から離れていく契機になりかねません。

 いまは、こうした抑止が働いている状態です。この抑止を超えるのにかかるコストを習近平国家主席が無視して、台湾の武力統一を決断するシナリオは考えにくいです。とはいえ、「中国による台湾の武力統一はない」と言うことは危険です。抑止が緩み、コストが下がるならば、中国は動くと思います。特にグレーゾーンへの警戒が必要です。

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