ロシア軍がウクライナの首都キーウ(キエフ)を目指した際、ウクライナ軍は、中国民間企業DJI製のドローン(無人機)を駆使して対抗した(写真:AFP/アフロ)
ロシア軍がウクライナの首都キーウ(キエフ)を目指した際、ウクライナ軍は、中国民間企業DJI製のドローン(無人機)を駆使して対抗した(写真:AFP/アフロ)

岸田文雄内閣は2022年末に国家安全保障戦略を改定する。現在の戦略を決めた13年から10年。この間、北朝鮮は「米国本土まで届く」と主張する「火星15」を開発するなどミサイル能力の強化を続けてきた。中国は、米国と技術覇権を争う存在に成長し、同時に、台湾統一に向けて武力の役割を高める。ロシアはウクライナに侵攻。再び「戦争の脅威」をもたらす国となった。こうした環境下で日本はいかなる戦略を定めるべきなのか。経済安全保障研究の草分けである村山裕三・同志社大学名誉教授に聞いた。

岸田文雄内閣は2022年末に国家安全保障戦略を改定する予定です。改定に当たって、何を重視すべきだと考えますか。

村山裕三・同志社大学名誉教授(以下、村山氏):改定する国家安全保障戦略には、具体性を持った経済安全保障の戦略について書き込むべきだと考えます。ただし、私が考える経済安全保障は、いま世の中で「経済安全保障」と呼ばれているものとは少し視点が異なります。書き込むべきは「経済的な手段によって防衛力を高める」政策です。これが本来の経済安全保障です。

村山裕三(むらやま・ゆうぞう)
村山裕三(むらやま・ゆうぞう)
同志社大学名誉教授。専門は経済安全保障、技術政策、文化ビジネスなど。1953年生まれ。75年同志社大学卒業。米ワシントン大学で経済学修士、および博士号を取得。野村総合研究所の研究員、大阪外国語大学(現大阪大学)助教授を経て2004年に同志社大学教授。

 重要物資のサプライチェーン強じん化や重要インフラのサイバーセキュリティー強化が経済安全保障として注目されています。これらはもちろん重要な政策ではあるものの、本来の経済安全保障ではありません。新型コロナウイルス感染症が拡大し医療物資や半導体の入手が難しくなりました。この動きと、経済安全保障に社会の耳目が集まり始めたタイミングが一致したためコンセプトの混乱が生じたのです。

民間の優れた技術を防衛装備に取り込め

 防衛力を、経済的手段によっていかに高めるか。いま最も重要なのは、一般の民間企業が持つ優れた技術を防衛装備品に生かす体制を構築することです。

 防衛装備品はこれまで、○○重工や○○電機といったいわゆる防衛産業が、防衛に特化した技術を使って開発・製造してきました。しかし、時代が変わり、AI(人工知能)や量子技術、ロボット技術やドローンなど、もともとは民生用だった技術が防衛装備品の優劣を決するようになりました。“防衛ムラ”に住む企業だけでは、これらの分野で競争力のある技術を生み出すことは困難です。

 そこで、これらの分野で優れた技術を持つ一般の企業を防衛装備品の開発・製造に参加させる体制を築く必要があるのです。

防衛装備品に携わる既存の企業から、防衛装備品のビジネスだけを切り出し統合する案が以前からあります。

村山氏:それではうまく行かない状況だと考えます。競争力を持たないものを集めて統合しても強くはなれません。ムラは、特定の分野において外国企業へのキャッチアップを図る際には力を発揮します。かつてのコンピューターしかり、原子力しかり、宇宙しかりです。関係企業が集まり、情報を共有してターゲットを定め、そこに集中投資をすれば競争力をそれなりに高めることができます。

 しかし、AIや量子技術などの分野でトップを争う技術を研究・開発するのには適しません。例えばグローバル競争が激化した通信分野ではかつての電電ファミリーはその存在意義を失いました。また、ムラはしだいに新たな参加者を排除するようになります。この開発システムは、今後の防衛装備品の開発・製造には不向きです。

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