台湾をめぐる緊張が高まっている。しかし、台湾の人々の反応は日本とは異なるという。東京外国語大学の小笠原欣幸教授は「台湾の人々は危機感を大きく高めてはいない」と指摘する。その3つの理由とは。
(聞き手:森 永輔)

安全保障の専門家に取材すると、台湾有事の話題が頻繁に持ち上がります。なぜいま台湾に注目が集まるのでしょう。
小笠原欣幸・東京外国語大学教授(以下、小笠原):中国が、台湾当局との「話し合い」による平和統一が進まないので、「武力による威嚇」をてこにした統一に舵を切ってきたからです。これは「強制的平和統一」と言えると思います。

東京外国語大学教授。専門は比較政治学、台湾研究。
1958年生まれ。1981年、一橋大学社会学部卒業。1986年、同大学大学院社会学研究科博士課程終了(社会学博士)。東京外国語大学の専任講師、助教授を経て、2020年から現職。この間に、英シェフィールド大学や台湾国立政治大学で客員教授を歴任。 主な著書に『中国の対台湾政策の展開―江沢民から胡錦濤へ』(共著)、『台湾総統選挙』(単著)など。 (写真:加藤康、以下同)
「中国による統一の拒否」は台湾の圧倒的多数の人々の考えになっています。最新の世論調査をみると「現状維持」を望む人が55.7%、「独立志向」の人が31.4%で、合わせて87.1%が「統一拒否」です(図を参照)。独立志向は、中国政府が香港で民主派を弾圧したのを受けて、2018年の20.1%から2021年の31.4%に大きく跳ね上がりました。
現在の蔡英文(ツァイ・インウェン)政権の与党・民進党はそもそも「統一」を拒否。民意を知る野党・国民党も「統一」を封印しています。
中国が「話し合い」に代えて力を入れ始めたのが「武力による威嚇」です。経済力の拡大を背景に、中国は軍事力を大きく増強しました。米国の介入がないと仮定するならば、中国は台湾を圧倒する軍事力を既に保有しています。これを見せつけ、台湾の抵抗心をくじき、「統一やむなし」との世論を醸成しようとしているのです。
強大な軍事力を見せつけるために、台湾周辺で軍事演習を繰り返しているのですね。
小笠原:そうです。そして、その中国の動きに対して、日本も米国も警戒感を高めることになりました。
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