民主派の抗議で混乱する香港立法会(2019年)(写真:ロイター/アフロ)
民主派の抗議で混乱する香港立法会(2019年)(写真:ロイター/アフロ)

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中国が進めるビジネスと経済を通じた統一工作の効果はどれほどか。 習近平国家政権が取り組んだ「一代一線政策」はある程度の効果を示した。 中国経済の高いポテンシャルが、台湾の若者を引き付け、2018年には「中国行きブーム」が生じた。 「機会があれば中国で仕事をしたいですか」との問に、20歳代の43.8%、30歳代の42.7%が「イエス」と答えた。 ところが……。 川上桃子・日本貿易振興機構アジア経済研究所 地域研究センター長に聞く。

(聞き手:森 永輔)

2012年に習近平(シー・ジンピン)政権が誕生しました。同政権の政策には、胡錦濤(フー・ジンタオ)政権(2002~2012年)との間で、ビジネスを通じた統一戦線工作の内容に違いはありますか。

川上:胡錦濤政権の時期の「恵台政策」は、以下の3つのカテゴリーに焦点を当てて、台湾住民に経済利益を与えようとするものでした。第1に台湾の中部と南部、第2に中低位所得層、第3に中小企業です。これは「三中政策」と呼ばれました。いずれも、台湾では経済的にあまり裕福ではなく、それまでの対中経済交流から恩恵を受けてこなかったグループです。

<span class="fontBold">川上桃子(かわかみ・ももこ)</span><br />日本貿易振興機構(JETRO)アジア経済研究所 地域研究センター長。専門は台湾研究、台湾を中心とする東アジアの産業発展。主な編著書に「中台関係のダイナミズムと台湾」(川上桃子・松本はる香編)「中国ファクターの政治社会学」(川上桃子・呉介民編)など (写真:加藤康、以下同)
川上桃子(かわかみ・ももこ)
日本貿易振興機構(JETRO)アジア経済研究所 地域研究センター長。専門は台湾研究、台湾を中心とする東アジアの産業発展。主な編著書に「中台関係のダイナミズムと台湾」(川上桃子・松本はる香編)「中国ファクターの政治社会学」(川上桃子・呉介民編)など (写真:加藤康、以下同)

 例えば2016年まで盛んに行われた中国人観光客の台湾ツアーの多くは台湾一周の旅で、それまで観光客が訪れることの少なかった東部や南部に、観光客のお金が落ちるようになりました。またツアー産業には中小事業者が多いです。

台湾東部は山がちで、農業もあまり発展していないと聞いたことがあります。

川上:はい。台湾の東部は経済面では立ち遅れており、中国人観光ビジネスはこの地域にメリットをもたらすと期待されました。もっとも、実際に潤ったのは香港系資本や国民党とつながりのある事業者や店舗、その関係者に限られたという指摘もありますが。

 胡錦濤政権の三中政策が、台湾に住む人びとへの利益供与を目指すものであったのに対して、習近平政権の取り込み策の特徴は、企業や個人を台湾から「大陸へと引き寄せる」ことにあると思います。

 2018~19年には、中国に進出する台湾企業や、中国で進学・就職する若者、専門職をターゲットとする優遇策を打ち出しました。例えば、台湾企業向けに政府調達への参加、ハイテク企業への減税・免税、といったことを通じて、広大な中国市場へのアクセスの道を開いています。

 個人向けには、大学教員や医師、映画関係者などの専門職の中国での就業促進策などが出されました。また、若者が重要な取り込みターゲットの1つになりました。中国語で「基層」と呼ばれる地域コミュニティーのリーダーたち、例えば村や里といったレベルのリーダーの取り込み策もあります。

 これらは「一代一線政策」と呼ばれます。

2018年には若者の間で「中国ブーム」が起きた

 習近平政権の一代一線政策で特に注目すべきは若者の取り込みです。「ひまわり学生運動」*の際に中国との経済統合に強く反対したのが若い世代であったことを踏まえて、彼らの懐柔を目指すようになりました。

*:中台サービス貿易協定をめぐる立法院での審議を与党・国民党が打ち切りにしたのを不満とし、学生が立法院を占拠した事件

 学生や若者の起業を支援すべく資金援助を提供する、学生に中国の一流企業でのインターンの機会を設ける、というのが主な手段です。起業誘致には2015年ごろから2017年までに約400億元を投入し、12の省市に53カ所の「海峡両岸青年創業基地」を開設しました。

 それぞれの創業基地が支援条件をめぐって競争する状況になり、例えば、広東省のある基地では、5~20万元のシードマネー、無料で2年間使用できるオフィスと住居の提供といった支援が打ち出されるなど、誘致合戦が起きました。

 もっとも、起業への支援は対象プロジェクトの数が限られ、コストもかかります。そのため、若者への支援をより廉価に、より広く展開する策として短期のインターンも拡大しました。台湾の学生たちに、中国の経済がいかに発展しているか、キャリアを高める機会が豊富にあることを実感してもらう取り組みです。

続きを読む 2/3 香港での民主派弾圧で一気に流れが変わった

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