中国政府と台湾当局の対話再開の前準備の役割を果たしたのが、中国共産党総書記だった胡錦濤(フー・ジンタオ)と、国民党主席だった連戦による2005年の「国共和解(国民党と中国共産党の和解)」ですね。

川上:はい。2005年の歴史的な国共和解は、陳水扁総統(当時、民進党)が2004年に再選を決め、台湾独立色の強い民進党政権が長期化することを懸念した胡錦濤政権が、李登輝路線と袂(たもと)を分かった国民党と手を結んだ、という構図です。民進党政権という、両者にとっての共通の敵の存在が、この時期に、共産党と国民党を近づけたのです。

馬英九政権は2008年、台湾と中国を結ぶ空路の定期直行便を実現。2010年6月には、中台間の自由貿易協定である「経済協力枠組み協定(ECFA)」を締結し、対象品目の関税を段階的に撤廃することを決めるなど、中台経済関係の深化を後押ししました。

川上:国民党の政権返り咲きを受けて、中国は、台湾への観光客の送り出しを始めたり、台湾の一部農産物の輸入関税を廃止したり、余剰農産物の買い支えをするなど、台湾に経済的メリットを提供し、馬英九政権を支援する施策を相次いで実行しました。

 対中投資は、陳水扁政権末期の2007年の時点で、すでに対外投資全体の60%に達していましたが、2010年には約1億4600万ドルに達し、台湾企業による対外投資全体の80%超を占めるに至りました。

 ハイテク産業にとっても中国は重要な市場です。TSMCが2018年に南京に設立した工場には、台湾から多数の素材メーカー、設備メーカーが随伴進出をしています。半導体サプライチェーンの川上に位置する企業が、中国の半導体メーカーとのビジネス拡大も視野に、投資を拡大しているのです。

中国は半導体の国内「自給率」を高めるべく取り組みを進めていますね。2019年の実績は15.7%。産業政策「中国製造2025」において、2025年までに70%に引き上げる目標を掲げています。

川上:はい。

 貿易と投資に加えて、中国は2010年代半ば頃から、就労、進学、起業の場としても重要な存在になってきました。台湾では、2010年代以降、若年層の賃金が停滞する一方で不動産価格が上昇し、若者の将来設計がしづらい環境になりました。一方、2014年の「ひまわり学生運動」*以降、中国は台湾の若者の取り込み策に力を入れるようになり、台湾の若者の中国での起業に優遇策を設けたり、アリババ集団や騰訊控股(テンセント)といった中国の巨大企業でのインターンや就職を後押ししたりする事例が増えました。言葉が通じる中国の就職市場は、台湾の若者の目にはなかなか魅力的に映りました。

*:中台サービス貿易協定をめぐる立法院での審議を与党・国民党が打ち切りにしたのを不満とし、学生が立法院を占拠した事件

今の台湾経済は、中国経済なしには回らない状態にあると考えてよいですか。

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