尖閣諸島をめぐって、「なぜ日本の無人島を守るため米国の若者が血を流す必要があるのか」という米国の市民の声が伝えられます。米政権や議会に対してはもちろん、こうした米国の世論に対して、日米同盟の有用性を知らしめる意味もあるわけですね。

香田:おっしゃるとおりです。

 安保法制の整備は、安倍首相の祖父・岸信介首相(当時)が1960年に実現した日米安保条約の改正と同様に高く評価されるべきだと思います。旧条約における日米関係は占領政策の延長線上にありました。岸首相はこれを、独立国同士の同盟に改めたのです。

テロリストの襲撃から米空母を守るには

香田さんは、安保法制によって平時の米艦防護ができるようになったことも評価されていますね。これは、どんな意味がありますか。どんなときに実行されるのでしょう。

 この規定は、防護の対象国を米国に限りませんし、対象物も艦船に限るものではありませんが、一般に「米艦防護」と呼ばれるので、ここではそう呼びます。従来は自衛隊が保有する武器だけが対象でしたが、安保法制で対象を広げました。

合衆国軍隊等の部隊の武器等の防護のための武器の使用

第九十五条の二
 自衛官は、アメリカ合衆国の軍隊その他の外国の軍隊その他これに類する組織(次項において「合衆国軍隊等」という。)の部隊であつて自衛隊と連携して我が国の防衛に資する活動(共同訓練を含み、現に戦闘行為が行われている現場で行われるものを除く。)に現に従事しているものの武器等を職務上警護するに当たり、人又は武器等を防護するため必要であると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。
ただし、刑法第三十六条 又は第三十七条 に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない。

2 前項の警護は、合衆国軍隊等から要請があつた場合であつて、防衛大臣が必要と認めるときに限り、自衛官が行うものとする。

香田:これも「部隊運用」で共同する機会をつくる取り組みの一環です。集団的自衛権の限定行使は有事の話ですね。米艦防護は、日本が平時でも我が国の防衛に資すると判断される状況にあるときに取り得る措置です。

 米国から防護の要請が来る可能性は、現実にはきわめて低いと考えられます。米国の艦船は、自衛隊に護衛してもらわなくても、自力で自分を守れます 。ただし、私が海上幕僚監部の防衛部長を務めていた2001年に次のような出来事がありました。

 米国で同時多発テロが起きた直後のことです。

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