安倍晋三首相が8月28日、辞任する意向を表明した。その外交・安全保障政策をいかに評価すべきか。海上自衛隊で自衛艦隊司令官(海将)を務めた香田洋二氏は、安保法制によって日米同盟は一層盤石になったと評価する。日米豪印が強調するフレークワーク作りを進め、アジアにおける存在感を増すことに成功にした。ただし、北方領土をめぐる対ロ交渉では、事を急いた感が否めない。海上自衛隊で自衛艦隊司令官(海将)を務めた香田洋二氏に聞いた。
(聞き手:森 永輔)

(前編はこちら)
安倍晋三首相は安全保障政策における成果として安保法制の整備を挙げました*。これをどう評価しますか。
香田:日米同盟をより強固なものにするのに貢献したと思います。
世界の不安定地帯に最も近いという日本の地理的条件やその先進工業力の基盤ゆえに、日米同盟は米国に取っても欠くべからざるものになっています。特に、在日米軍施設に大量の弾薬と燃料を貯蔵しているからこそ、米軍はインド洋や中東へ展開することができる。加えて、日本はインフラが充実しています。水道水がそのまま飲め、基地の周囲で購入した糧食をそのまま兵士に提供できる環境はほかにありません(関連記事「敵基地攻撃能力が抑止力にならないこれだけの理由」)。

海上自衛隊で自衛艦隊司令官(海将)を務めた。1949年生まれ。72年に防衛大学校を卒業し、海自に入隊。92年に米海軍大学指揮過程を終了。統合幕僚会議事務局長や佐世保地方総監などを歴任。著書に『賛成・反対を言う前の集団的自衛権入門』など(写真:大槻純一 以下同)
それゆえ、日本を拠点としている米兵の数も非常に多い状況です。英国、ドイツ、イタリアがそれぞれ1万、2.4万、1.8万であるのに対して、政府発表と別に、第7艦隊を中心とする海軍部隊も加えれば日本には7万人がいます。
しかし、多くの米国人はこの点を理解していません。
他方、軍事同盟というのは本質的には「共に戦う」約束です。それゆえ米国には、日本が基地を提供し、米国が防衛義務を果たすという日米同盟の非対称性に対する不満が存在します。
ドナルド・トランプ米大統領の「日本には米国を防衛する義務がないから不公平だ」という発言にその不満が表れていますね。
香田:そうです。こうした不満を解消し、日米同盟をより強固なものにすることに、安保法制は貢献していると思います。具体的には、集団的自衛権の限定行使を容認し、「一緒に戦う」姿勢を示したことを指します。
もちろん、日本が米国と共に戦うのは定められた要件を満たした場合だけです(以下の囲みを参照)。それも、国会承認という民主的な手続きを踏んだうえであることは当然です。
(1)わが国に対する武力攻撃が発生したこと、又はわが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること(存立危機事態)
(2)これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと
(3)必要最小限度の実力行使にとどまること
これによって、基地の提供という「制度」で米国に利益を与えるのに加えて、「部隊運用」でも共同する機会が増える。米国の若者が死んでいくニュースを、日本人は居間に座りソニー製テレビで見ている――と考えがちな米国人に、そうではないことを示したわけです。
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