安倍晋三首相が8月28日、辞任する意向を表明した。その外交・安全保障政策をいかに評価すべきか。海上自衛隊で自衛艦隊司令官(海将)を務めた香田洋二氏は、2つのターニングポイントがあったと指摘する。第1の転機で評価を高めたが、第2の転機以降は理念を示すことができなかったと見る。その理念とは何か。理念を示すことができなかった背景に何があるのか。

(聞き手:森 永輔)

2014年にシンガポールで開かれたシャングリラ対話で講演する安倍晋三首相(写真:AP/アフロ)

安倍晋三首相が8月28日、辞任する意向を表明しました。7年8カ月に及んだ安倍政権の外交と安全保障の政策をどう評価しますか。

香田:まずは長期にわたるご苦労に、お疲れさまでしたと言わせていただきます。

 私は安倍政権の外交と安全保障政策には2つのターニングポイントがあったと思います。1つ目のターニングポイントによって安倍首相は、それまでは比較的ネガティブだった国際社会における評価を反転させることに成功しました。そして、2つ目のターニングポイントの後は、残念ながら、自らの理念を国民や諸外国に明確に示すことができず精彩を欠くことになりました。

香田洋二(こうだ・ようじ)
海上自衛隊で自衛艦隊司令官(海将)を務めた。1949年生まれ。72年に防衛大学校を卒業し、海自に入隊。92年に米海軍大学指揮課程を修了。統合幕僚会議事務局長や佐世保地方総監などを歴任。著書に『賛成・反対を言う前の集団的自衛権入門』など。(写真:大槻純一)

2014年のシャングリラ対話で「法の支配」を支持

 順にお話ししましょう。第1のターニングポイントは、2014年5月にシンガポールで開かれたアジア安全保障会議(シャングリラ対話)で講演し、「法の支配(Rule of Law)」を訴えました。これにより、それまで、感情的な理由によりあまり芳しくなった諸外国からの評価が大きく高まりました。安倍首相が、国際標準である規範を強く支持する姿勢を明確にしたからです。これが後の「自由で開かれたインド太平洋」構想にもつながります。

シャングリラ対話は、アジア地域の国々を中心に、国防大臣や安全保障の専門家などが一堂に集う国際会議。安倍首相はこの年、開会行事で基調演説を行いました。

香田:その場で、海における「法の支配」をテーマに、3つの原則を提示しました。①各国は法に基づいて行動すること、②力や威圧を用いてはならないこと、③紛争は平和的に解決すべきこと、です。当時は、中国が南シナ海においてフィリピンやベトナムと対立を深めている時期であり、インドなどの域外国も含めて中国の活動に強い疑念を持ち始めた時期でした。安倍首相は、ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国と中国が2002年に合意した、紛争を予防するための「行動宣言(DOC)」が原則であることに触れ、関係国が一方的な行動をとらない意向を明らかにするよう求めました。

 それまで、安倍首相に対する諸外国の評価は、特に憲法改正に関して同氏と意見を異にする日本の一部マスコミの報道ぶりの影響を受け、さらにそれらを直接引用する外電の報道もあり、好ましいものではありませんでした。

続きを読む 2/4 第2のターニングポイントとなった2018年の訪中

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り3784文字 / 全文5282文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

オリジナル動画が見放題、ウェビナー参加し放題

日経ビジネス最新号、9年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「森 永輔の世界の今・日本の将来」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。