中国による台湾周辺での軍事演習「常態化」は、「短期激烈戦」の現実味を高める。そこで重要度を増すのが米軍による抑止だ。米軍による「太平洋抑止イニシアチブ(PDI)」の実効性はいかに。日本の南西諸島防衛との関係はどうなるのか。航空自衛隊元空将の小野田治氏に聞く。

(聞き手:森 永輔)

米海兵隊。台湾有事となれば、中国人民解放軍の戦闘機や艦艇と最前線で対峙し、台湾への接近を阻止する構想が進む(提供:USMC/アフロ)
米海兵隊。台湾有事となれば、中国人民解放軍の戦闘機や艦艇と最前線で対峙し、台湾への接近を阻止する構想が進む(提供:USMC/アフロ)

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中国が台湾周辺での軍事演習を常態化させる。その脅威の下で、台湾の世論が動揺する。そうなると、小野田さんが著書『台湾有事と日本の安全保障』の中で取り上げた第2のシナリオ「台湾限定の短期激烈戦」が現実味を帯びてきますね。中国は、米国や日本が軍事介入できない環境をつくった上で、台湾の親中勢力を支援して傀儡(かいらい)政権を打ち立てる。

 こうした事態を起こさないためには、抑止が重要になります。そこで、米軍の動向について伺います。中国による台湾武力統一を抑止する構想として「太平洋抑止イニシアチブ(PDI:Pacific Deterrence Initiative)」が注目されています。中国が進める防衛戦略「A2AD」*を中国に対して「やり返す」、すなわち中国人民解放軍を第1列島線内にとどめる施策です。

*:Anti-Access,Area Denial(接近阻止・領域拒否)の略。中国が防衛ラインと考える第2列島線内の海域に空母をはじめとする米軍をアクセスさせないようにする戦略。これを実現すべく、弾道ミサイルや巡航ミサイル、潜水艦、爆撃機の能力を向上させている。第1列島線は日本列島および日本の南西諸島から台湾、フィリピンを経て南シナ海にかかるライン。第2列島線は、伊豆諸島から米領グアムを経てパプアニューギニアに至るラインを指す。

 小野田さんはこれをどう評価しますか。

太平洋抑止イニシアチブ(PDI)

 中国は、およそ2000発保有しているといわれる短中距離弾道ミサイルによる飽和攻撃で米軍が台湾に近寄るのをけん制しつつ、台湾を短期間で制圧するシナリオを持つ。これを阻止するのがPDIの狙いの1つ。

 具体的には、第1列島線上およびその内部に展開するインサイド部隊と、第1列島線の外からインサイド部隊の支援や反攻作戦を行うアウトサイド部隊が連携して中国軍の攻撃に対抗する。インサイド部隊の主力は米海兵隊。弾道ミサイルによる飽和攻撃に耐えつつ、中国軍の航空機や艦艇が接近するのを阻止する。地対空ミサイルおよび地対艦ミサイル、センサー、電子戦システムなどを装備して戦う。

 もう一方のアウトサイド部隊は、中国の弾道ミサイル攻撃を避け、第1列島線の外からインサイド部隊への支援や反攻の役割を担う。その主力は米海軍の艦艇や、米空軍の戦闘機、爆撃機。例えばE-3などの早期警戒管制機(AWACS)が中国軍の動きをキャッチし、インサイド部隊に伝える。B-52などの爆撃機による空爆や、艦艇が配備する長い射程の対艦巡航ミサイル(ASCM)によって中国軍の接近を防ぐ。ステルス性能に優れる戦闘機F-35が中国のレーダー網をかいくぐり、同軍の地上部隊を攻撃することも想定される。

 以上のような態勢を取り、中国が台湾周辺で航空優勢および海上優勢を獲得するのを防げば、中国は地上部隊を台湾に侵攻させることが難しくなる、と考える。

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