5発の弾道ミサイルが意味するもの
弾道ミサイルの着弾点も硬軟両方のメッセージを発するものでした。まず、弾道ミサイルを発射したことそのものが、ペロシ議長訪台への反発を示す「硬」のメッセージ。

さらに日本の防衛省が確認した9発のうち5発は台湾の東沖に着弾しました。これも「台湾東岸にある台湾空軍および海軍の基地を攻撃できる」との能力を示す「硬」のメッセージです。台湾は「戦力防護、沿岸快勝、水際殲滅(せんめつ)」という防衛構想を採用しています。中国軍が侵攻する兆候が見られたら、緒戦における弾道ミサイル攻撃から戦闘機や艦艇などの戦力を防護する(戦力防護)。その後、上陸を試みる中国海軍の艦艇を近海における決戦で撃破する(沿岸快勝)。そして、敵陸上部隊を海岸で殲滅する(水際殲滅)。
この「戦力防護」のため台湾東岸に海軍基地を、山岳部の東壁を利用して空軍の格納庫を設置しています。
台湾は中央部を山脈が縦断。山脈を成す峰の中には3000メートル級のものも多くあります。従って、大陸側から台湾東岸を攻撃するのは容易でないからですね。しかも、東岸は平らな土地が少ないので上陸作戦も難しい。
小野田氏:それでも、弾道ミサイルなら上から攻撃することが可能です。中国軍の弾道ミサイル演習はこれらの基地や格納庫を空から攻撃することができることを示すものでした。
かつ、その着弾地点は非常に正確でした。いずれも中国が訓練海域とした範囲に収まっています。うち5発は、沖縄県・波照間島南西の日本の排他的経済水域(EEZ)内に着弾しました。まかり間違って日本の領海内に着弾すれば、日本が「日本に対する攻撃」と見なす恐れがあります。そうしたリスクにつながるミスはしないという自信があったのでしょう。
弾道ミサイルについては、米グアムを狙わなかったこともメッセージの1つといえます。中国はDF-26という中距離弾道ミサイルを保有しています。「グアム・キラー」との異名を持つもの。これを試射する選択肢もありましたが、そうはしませんでした。これも「米国と事を構える気はない」との意思表示と考えることができます。
弾道弾にはイージス艦で抗議、尖閣の過ち繰り返すな
第2の注目点は何でしょう。
小野田氏:中国の軍事演習に対する日本の反応、そして国際世論の反応が乏しかったことです。
まず、中国の弾道ミサイルが日本のEEZ内に着弾したことについて。日本は森健良外務次官が、中国の孔鉉佑・駐日大使に抗議するにとどまりました。政府は、国家安全保障会議(NSC)を開くこともなかった。私は、これらが必要十分な措置であったか、疑問を覚えます。
自衛隊を動かしてもよかったのではないでしょうか。例えば、周辺にいる海上自衛隊のイージス艦に中国訓練海域の近くを航行させる。もしくは航空自衛隊のAWACS(早期警戒管制機)に沖縄県・与那国島*上空を飛行させる。言葉だけでなく目に見える行動で、「ダメだぞ」と中国に伝えるわけです。ふだん中国がやっている方法で、こちらも意思を示す。
日本のメディアの反応も淡泊だったと思います。わずか2週間で、もう昔の話にしてしまいました。
ここできちんと対応しないと、中国は「日本は動かない」と評価するでしょう。そうなれば、今後、同様のことを繰り返すようになります。
中国が1992年に領海法を制定しました。この法律は沖縄県・尖閣諸島は中国の領土に属すると明記しています。このときに日本政府が強く反発しなかったことが、今日の尖閣問題を招いたとの見方があります。例えば「(同年に実現した)天皇訪中を駆け引きの材料にして、中国に考え直すよう迫ることはできなかったのか」という具合です。
Powered by リゾーム?