ペロシ米下院議長の台湾訪問に反発した中国が、台湾を取り巻く6カ所で軍事演習を実施した。航空自衛隊で西部航空方面隊司令官などを歴任した小野田治氏は、一連の演習における爆撃機の動きと、弾道ミサイルの着弾地点に注目する。果たして、これらが意味するものは何か。中国による台湾武力統一は蓋然性を増したのか。
(聞き手:森 永輔)

中国が8月4~10日、台湾周辺の6カ所で軍事演習を実施しました。台湾を包囲するかのような演習を「前代未聞」と見る識者もいます。小野田さんはこの演習のどこに注目しましたか。
小野田治・元空将(以下、小野田氏):大きく2つあります。第1は中国が周到に練られた動きをしたことです。中国の力の強さを見せつけると同時に、「台湾および米国と事を構える意思はない」とのメッセージを送りました。しかも、その動きは速かった。

この周到さは軍事演習に限りません。経済面でも、ペロシ議長が蔡英文(ツァイ・インウェン)総統と会談した8月3日に即、台湾産かんきつ類の輸入通関受理を停止。同日、天然砂の輸出も暫時停止すると発表しました。こうした報復とも取れる措置を迅速に実行したとはいえ、台湾経済に大きなダメージを与えるものではないと報道されています。
爆撃機の数と航路が示すのは…
軍事演習についても同様です。まるで台湾を包囲するかのように6カ所で演習をしたものの、その内容は自制が利いていました。私が注目したのは爆撃機の動きです。8月2~17日に台湾防空識別圏(ADIZ)*内を飛行した中国軍機の種類と機数を見ると、爆撃機は8月7日に3機飛んだのみでした。しかもその行動範囲は、台湾が中間線とするラインの南西端にとどまった。台湾南部に展開することはありませんでした。
この動きと、2021年9~11月の動きとを比較すると違いが顕著です。昨年秋には、爆撃機が頻繁にADIZ内を飛行。10機近い爆撃機が侵入する日もありました。かつ、台湾の西側から東へ向けて飛び、フィリピン海に入って台湾南端を越え、今回の演習における台湾南端地域を越える地点まで足を伸ばすこともあった。台湾南部には高雄や台南などの主要都市があります。これらの都市を爆撃する能力があることを見せつける行為で、台湾にとっては大きな脅威。こうした示威行動は今回の演習ではありませんでした。
8月4日は、米原子力空母ロナルド・レーガンがフィリピン海を航行していました。これと近づくことで不測の事態が起こることを避けたとも考えられますね。
小野田氏:そうですね。そうだとすれば「米軍と事を構える意思はない」というメッセージを送ったことにもなります。
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