中国がアジアのあらゆる方面で強圧的な姿勢を強めている。南シナ海ではベトナム漁船を沈め、尖閣諸島周辺では領海侵犯の頻度を高める。中国研究の重鎮である天児慧・早稲田大学名誉教授は、習近平政権が基盤を固め、「米国と並び立つ強国」への道を着々と進め始めた証しとみる。国民からの信頼もつかんでいる。「強国」路線は、国民の間に広がるナショナリズムの高揚とも符合する。
(聞き手 森 永輔)

中国が日本を含むアジアのあらゆる方面で強圧的な姿勢を強めています。 まずは南シナ海。4月2日には中国海警局の船が西沙(英語名パラセル)諸島周辺でベトナム漁船を沈没させました。東シナ海では5月8日、中国海警局の船が沖縄県尖閣諸島周辺の領海を侵犯。さらに、操業中の日本の漁船に接近、追尾する事態が生じました。中国公船は領海侵犯の頻度を高めています。7~8月にかけては5回繰り返し、2020年に入ってからの合計回数を15回に高めました(14日現在)。 香港では6月30日に香港国家安全維持法を施行。8月10日には民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)氏ら10人を逮捕しました。この中には中国に批判的な論調の「蘋果日報(アップル・デイリー)」の創業者である黎智英(ジミー・ライ)氏も含まれます*。 こうした強圧的な姿勢を、なぜこの時期に全方位で強めているのでしょう。
米国と並び立つ強国への道を着々と
天児:習近平(シー・ジンピン)国家主席は、建国100年を迎える2049年までに「経済、軍事、文化など幅広い分野で世界の頂を目指し、米国と並び立つ強国となる長期構想」を、2017年10月の中国共産党大会で表明しました。これを実現すべく勢力圏を広げるための行動を展開しているのだと思います。

早稲田大学名誉教授 アジア共創塾塾長
専門は中国政治とアジア現代史。社会学博士。1947年生まれ。早稲田大学を卒業し、一橋大学大学院博士課程修了。外務省専門調査員として在北京日本大使館に勤務した経験を持つ。近著に『証言 戦後日中関係秘史』(岩波書店)など。(撮影:菊池くらげ、以下同)
勢力圏を広げる手段は、いま指摘された強圧的な行動に限りません。硬軟両様で勢力圏の拡大を図っています。「一帯一路」構想の下で経済・金融技術の支援などを進めているのが一例です。最近のコロナ騒動では、医療物資や医療専門家を多くの国に提供、派遣する「マスク外交」を進めていますね。
欧州諸国に200万枚のマスクを送ったことが4月に報道されています。感染者が多いスペインやイタリアが中心でした。3月にはセルビアに医療専門家チームを派遣しています。
天児:タイミングはやはり、新型コロナウイルスの感染拡大で米国が大きなダメージを受けているからでしょう。11月には米大統領選も控えています。米国が外交的に動けないこの隙を突いて陣営の拡大を図っていると考えます。
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