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気鋭の台湾研究者である松田康博・東京大学教授は、 「強制的平和統一ができるかもしれない」と思わせないために、 3つの条件を満たし続けることが肝要だと説く。 第1は、米国に台湾を見捨てさせないこと。そして第2は……
(聞き手:森 永輔)
中国が「強制的平和統一」を目指して軍事力を見せつける宣伝と行動をし続ける。そうした心理戦も許さない米国が反応し、疑似的なエスカレーションが続く。中長期的には中国が軍事力を増強して「強制的平和統一」に傾いていく中で、我々が注意すべきことは何でしょう。
松田康博・東京大学教授(以下、松田):中国に「武力行使」も「強制的平和統一」も、「できるかもしれない」という気を起こさせないことです。これまでお話ししたように習近平(シー・ジンピン)政権が武力統一に動く可能性は小さいものの、10年後、20年後の中国はさらに強大な軍事力を保有しているでしょう。

中国に強制的平和統一を「できるかもしれない」と思わせないためには、以下の3条件を同時に満たし続けることが肝要です。第1に米国が台湾を見捨てない、第2は日米同盟が機能する、そして第3は、台湾が武力の威嚇に抵抗する意志を失わない、です。このうちどの1つが欠けても、中国は「やれるかもしれない」と考える恐れがあります。
第1の条件について、米国は「台湾有事には介入する」という前提で考えてよいものでしょうか。米外交問題評議会が発表したリポート「The United States, China, and Taiwan : A Strategy to Prevent War」は結論として、台湾を、本格的な戦争をしてでも守らなければならない対象とはしませんでした。
松田:米国は「戦略的あいまいさによる二重抑止」を取っています。台湾有事に介入するかしないかを明確にしないことで、中国には「介入するかもしれない」と思わせ抑止する。台湾には「介入しないかもしれない」と思わせることで、中国を挑発する行為を抑止する、というものです。ただし、朝鮮戦争とイラク戦争を思い起こしてください。両方とも、米国は介入しないというシグナルを送り、相手もそう信じたのですが、結局米国は自国の国益のため介入を決めました。万が一にでも米国が介入したら中国の対台湾武力統一は失敗しますが、中国はその万が一の失敗を許容できないのです。
日本政府は中国の対台湾武力行使を認めない
第2の日米同盟を機能させる、についてうかがいます。仮に、中国が対台湾武力行使に動いた場合、日本にはそれに関与する正統性があるのでしょうか。中国は次のように主張する可能性があります。「日本は1972年の日中共同声明で、中華人民共和国を中国の唯一の合法政府と承認した。中華人民共和国による台湾統一は内政問題である。日本はこれに干渉する権利を持たない」
松田:日中共同声明では、「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」と書いてあります。つまり日本は台湾が中国の一部であるという中国の立場を承認したわけではありませんが、軽んじてもいけません。また「ポツダム宣言第八項」には、台湾を「中華民国に返還」するとありますから、将来台湾が中華民国を承継した中華人民共和国に帰属することを受け入れるので、したがって日本は「台湾独立」を支持しないことになっています。
ただし、このことは「台湾が既に中国の領土になっている」と認識するものではなく、中華人民共和国が台湾を武力で併合することを認めるものでは決してありません。この問題は、当事者の話し合いにより平和的に解決することを望むというのが、日本の一貫した立場です。
したがって、もしも本当に台湾有事が起きたとき、日本がどのような行動を取るかは、日本と中国や台湾との関係ではなく、「日本の平和と安全の問題」として考えることが重要なのです。
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