米誌ナショナル・インタレストが昨年8月に掲載した記事によると、米国防総省が米中の軍事衝突、中でも台湾をめぐる争いを想定して実施したWar Game(机上演習)で、米軍が敗北する可能性が高いことを示す結果が複数出ているそうです。今のお話は楽観的にすぎるのではないですか。

松田:まず、米軍がなぜそうした机上演習をするかを理解する必要があります。それは、自軍の弱点を見つけ出して改善するためです。ですから、彼らは中国軍が最大限能力を発揮する条件で、台湾軍や米軍の弱点を突いてきた場合どうなるかを研究するのです。そしてその結果を、米軍の弱点を補強する改善策や予算要求につなげます。それが机上演習の目的です。

 次に、核交換をしない限り、米国本土はほぼ無傷の一方で、中国は戦場になります。対台湾武力統一は米国への真っ正面からの挑戦ですから、米国は中国が少なくとも短期的に立ち上がれないほどの打撃を中国に与える選択肢を念頭に置くでしょう。例えば、中国の空母は撃沈するでしょうし、ミサイル基地、空軍基地、軍需産業拠点を破壊することもできます。

 それほどの打撃を被る中国が核使用の誘惑に勝てるでしょうか。ただし、もしも中国が対米先制核攻撃の構えをわずかでも見せたら、米国はためらうことなく中国に核の先制攻撃をかけるでしょう。つまり、対台湾武力統一戦争とは、米中どちらも始めたら絶対に負けられない戦争なので、エスカレートしやすいのです。台湾占領に失敗し、自国の発展の機会が失われ、それどころか人類滅亡にもなりかねない核交換にまでエスカレートしかねない選択を、どのような条件がそろったら中国は取ると思いますか。

 おそらく中国の指導者が常軌を逸した誤算をしない限り、あり得ません。しかもこれは国運をかけた大戦争ですから準備に数カ月かかり、奇襲はできません。つまり、台湾、米国、日本など、中国がこの戦争に踏み出すことを察知し、ほぼ守りを固めた状況で中国の攻撃が始まるのです。それなのに、中国は、台湾の完全占領というパーフェクトな戦争を完遂しなければ勝ったことにならない。

 私には、中国がそんな選択をする蓋然性は極めて低いとしか思えません。

台湾の離島なら、武力攻撃はあり得るか

では、中国が台湾に限定的な武力行使をする蓋然性をどうみますか。

松田:中国が極端な誤算をするか、台湾や米国から忍耐の限界を超えた「挑発」を受けない限り、その蓋然性もまた低いです。

 限定的な武力行使をいくつかのケースに分けて、具体的に考えてみましょう。攻撃の対象は、台湾側の領土である(A)南シナ海の離島、(B)福建省沿岸の離島、(C)澎湖諸島、(D)台湾本島の4つに分けることができます。

 (A)は、台湾が実効支配する東沙諸島(プラタス諸島)や、同じく台湾が実効支配する南沙諸島(スプラトリー諸島)の太平島(イトゥ・アバ島)です。中国は昨年から台湾と東沙諸島をつなぐルートを扼(やく)するように軍用機を飛ばすなどして、「隙あらば取るぞ」という構えをみせています。

 これに対して台湾はほぼなすすべがありません。これらの離島は、台湾にある兵器のアウトレンジにあります。またたとえ軍用機や艦艇を派遣しても、中国本土に近いため、中国が航空・海上優勢を確保している領域で交戦しなければなりません。台湾が反撃したところで中国はそれを容易に排除するでしょう。

 しかも、この島について、米国が介入する責任もありません。この島々は歴史的な意味の「台湾」の領域*ではなく、台湾関係法**の適用範囲でもないからです。よって、中国は台湾軍を排除し、離島を完全占領する「パーフェクトな戦争」を実行することができるように見えるのです。

*:日清戦争後の下関条約において、日本に割譲した台湾本島、澎湖諸島、周辺の島々を指す
**:米国と台湾が1979年に断交した後の、対台湾政策を定めた米国の法律。台湾の安全保障については「合衆国の中華人民共和国との外交関係樹立の決定は、台湾の将来が平和的手段によって決定されるとの期待にもとづくものであることを明確に表明する」「平和手段以外によって台湾の将来を決定しようとする試みは、ボイコット、封鎖を含むいかなるものであれ、西太平洋地域の平和と安全に対する脅威であり、合衆国の重大関心事と考える」とし介入を示唆している

 とはいえ、中国が失うものは大きすぎます。離島という「出城」を取ることで台湾という「本丸」を落とせなくなる可能性が大なのです。例えば東沙諸島には数百人の台湾軍が展開しています。彼らに死者が出たり、捕虜になったりしたら、台湾住民の反中感情を高めては「平和統一」などできません。また、中国は台湾軍がどの程度の反撃に出るかをコントロールできません。たとえわずかでも中国本土が攻撃を受けたら、反撃をせざるを得なくなりますから、「限定的」に始めてもエスカレートする可能性は否定できません。

 加えて、武力を行使して南シナ海の領土関係を変更すれば、中国と領有権争いを抱えているベトナムやフィリピン、尖閣諸島で中国の圧力を受けている日本は、中国の動きに危機感を覚え、対策を強化するでしょう。南シナ海における中国の九段線の主張や軍事拠点化を警戒する米国、英国、フランス、オーストラリアなどの危機感は急速に高まります。

 つまりこれは第2次世界大戦におけるナチス・ドイツのポーランド侵攻を思い起こさせるのです。米国は当然、次の戦争を抑止するため台湾との軍事関係を一層強めるでしょう。そうなれば、「本丸」である台湾本島の統一が遠のくことになってしまうのです。

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