
気鋭の台湾研究者である松田康博・東京大学教授は 「中国が台湾に対して武力統一を仕掛ける蓋然性は当面極めて低い」とみる。 十分な軍事力を持たないからだ。ならば、東沙諸島や金門島など台湾の離島を対象に、限定的に武力を行使することはあり得るか。
(聞き手:森 永輔)
台湾有事に人々の耳目が集まっています。まずお伺いします。中国は台湾を武力統一するつもりなのでしょうか。
松田康博・東京大学教授(以下、松田):中国が台湾に対して武力統一を仕掛ける蓋然性は当面極めて低いと思います。能力が足りず、今後10年くらいは考えにくいでしょう。

具体的に考えてみましょう。どんな戦争も目的を達成すれば勝利で、達成できなければ、たとえ戦闘に勝利したとしても、それは敗北です。中国にとって台湾の武力統一とは、100km以上離れた重武装した島を完全占領し、新政権を樹立して統治を開始し、長期にわたって維持することを意味します。
そのためには、弾道ミサイルなどによる攻撃、航空・海上優勢の確保、着上陸侵攻作戦などを成功させ、上陸させる大部隊に対して、途切れることなく補給をしなければなりません。どの段階で失敗しても、例えば米軍が介入して補給が途切れたとしたら、上陸部隊は孤軍となってせん滅されます。しかもこの間台湾軍が反撃して中国本土にも戦火が及びます。
宇宙やサイバーのドメインで中国がいくら強くても台湾占領はできません。台湾が抵抗する限り必ず大戦争になります。台湾は台湾を守り切りさえすれば勝ちになります。台湾を完全占領する作戦はあまりにもコストとリスクが高く、中国が踏み切れるとは到底思えません。
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