北朝鮮がICBMを保有することによる戦略的計算の変化についてご説明いただけますか。

高橋:米本土を射程に収めるICBMを保有することで、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長が「米国は介入してこない。よって韓国を攻めることができる」と認識するかもしれないことが理由です。順に説明しましょう

*:詳細は、高橋杉雄、秋山信将編『「核の忘却」の終わり:核兵器復権の時代』(勁草書房、2019年)で高橋氏が執筆している「終章」を参照

 北朝鮮が保有する軍事的な能力から考えて、同国は3つの段階を想定していると考えられます。最終段階(段階C)は、韓国軍および在韓米軍を孤立させてこれをたたくこと。

 段階Cを実現するには、日本列島にある米軍基地を機能しなくする必要があります(段階B)。1950年の朝鮮戦争を思い出してください。当時の日本は占領下でしたが、日本の基地が大きな役割を果たしました。戦局を大きく変えた仁川への上陸作戦は佐世保をはじめとする北九州の基地を使用して行いました。北朝鮮の爆撃に向かうB-29も日本の基地から発進しています。日本なくして米国は韓国を防衛できなかったのです。

 日本列島が果たすこの大きな役割に対して、当時の北朝鮮は何もできませんでした。よって、次なる半島有事にはこの教訓を生かし、日本列島を攻撃するのは当然と考えます。

 そして、もう1つの段階は米本土からの介入を阻止することです(段階A)。段階Aは、段階Bと段階Cを実現するのに有効です。日本が直接関わる段階Bとの関係について考えましょう。在日米軍基地を機能させないよう、北朝鮮はまず日本に対し「米軍に基地を使用させるな」と迫るでしょう。もちろん「従わなければ、ミサイルで攻撃する」という威嚇を伴います。

 これに対して米国は日本に対する核の傘を強化するでしょう。すると、今度は北朝鮮は、米国に対し、「日本を守るため北朝鮮を核攻撃するなら、北朝鮮はニューヨークを核攻撃する」と迫ります。米国は東京とニューヨークをてんびんにかけなければならなくなります。

 私はこれでも米国は日本防衛の誓約を履行すると思いますが、金正恩委員長が「米国はてんびんにかけた結果、自国の安全を優先する」と認識すれば、同氏の頭の中で段階Bが実現する可能性が高まり、段階Cの実現が容易になるわけです。このような形で戦略的計算が変わります。

半島有事にはノドンが日本に飛んでくる

高橋:この新たな戦略的計算において、「攻撃されるのは在日米軍基地なのだから日本は関係ない」という意見があるかもしれません。しかし私はそうは思いません。日本はこの攻撃を日本の問題として考える必要があります。理由は2つ。第1は、在日米軍基地への攻撃であっても、周辺の住民に被害が及ぶ恐れがあること。北朝鮮の技術力から考えて、米軍基地をピンポイントに攻撃するのは難しいでしょう。それに、そもそも在日米軍基地は日本の領土です。

 もう1つは、日本そのものが攻撃目標になり得ることです。先ほどお話ししたように北朝鮮は、在日米軍基地の使用や米軍の軍事アセットの日本領内通過を米国に対して拒否するよう日本に求めてくるでしょう。そして、朝鮮戦争のときと異なり現在の北朝鮮は、「応じなければ、日本を攻撃する」との恫喝(どうかつ)を実行する力があるのです。

 そうなると、日本は北朝鮮の攻撃による損害を限定すべく対処する必要があります。その手段として敵基地攻撃能力が考えられるわけです。

 新たな戦略的計算の下でも、日本が敵基地攻撃能力を保有していれば損害限定による抑止が期待できます。例えば次のようなシナリオを思い浮かべてください。①半島有事が発生してしまった。②米韓連合軍が北朝鮮国内にあるノドン*1の発射基地とスカッド*2の発射基地を発見した。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り3829文字 / 全文6213文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

特集、人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

ウェビナー【日経ビジネスLIVE】にも参加し放題

日経ビジネス最新号、10年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「森 永輔の世界の今・日本の将来」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。