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 河野太郎防衛相が6月15日、イージス・アショア配備計画の停止を明らかにし、日本のミサイル防衛に激震が走った。今後の抑止力を不安視する声が勢いを得ている。そこでイージス・アショアや敵基地攻撃能力が持ちうる抑止力について考える。抑止理論の第一人者の一人、高橋杉雄・防衛省防衛研究所防衛政策研究室長は「制圧効果」に注目する。イラク戦争における「スカッドハント」から何が分かったのか。

(聞き手:森 永輔)

北朝鮮が2016年、SLBMミサイルの水中発射実験に成功と発表した(写真:KCNA/新華社/アフロ)

北朝鮮がICBMを獲得し、半島有事の可能性が高まった

敵基地攻撃能力も挑発対処が目的ですか。

高橋:いえ、敵基地攻撃能力は挑発対処には使えません。挑発は「平時」に行われるものですから。

高橋杉雄(たかはし・すぎお)防衛研究所政策研究部防衛政策研究室長。専門は国際安全保障論、現代軍事戦略論、日米関係論。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。同大学院同研究科で政治学修士、ジョージワシントン大学コロンビアンスクールで政治学修士を取得。1997年、防衛研究所に入所。(写真:加藤 康、以下同)

あ、それはそうですね。敵基地攻撃能力の法的な根拠は以下の鳩山一郎首相(当時)政権の答弁にあります。

1956年2月29日 鳩山一郎首相の答弁を船田中防衛庁長官が代読

 わが国に対して急迫不正の侵害が行われ、わが国土に対し誘導弾などによる攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とは考えられない。攻撃を防ぐのに万やむを得ない必要最小限度の措置をとること、例えば、他に手段がないと認められる限り、誘導弾などの基地をたたくことは自衛の範囲に含まれ、可能である

 これは自衛権の発動、つまり有事を想定した答弁です。

高橋:そうですね。敵基地攻撃能力は挑発対処とは目的が異なります。このあたりは2017年のミサイル危機以後、戦略環境が変わってきていることを考慮する必要があるかもしれません。2017年以降、何が変わったのか。それは「北朝鮮が米本土を射程に収めるICBM(大陸間弾道ミサイル)を開発したらしい」ということです。

 北朝鮮が米本土を射程に収めるICBMを実戦配備すれば、朝鮮半島有事の際の戦略的計算が大きく変わります。そこで日本が受ける損害を限定するのに敵基地攻撃能力が役立ちます。