ルールメークこそ経済安全保障の主戦場

今回の共同声明を読むと「ルール」および「秩序」という言葉が目立ちます。前者は10回、後者は7回登場します。これは、どのように読み解くべきですか。

佐橋氏:それは、今回の経済版2プラス2が持つもう1つの重要な役割を表しています。「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」のエンジンとなり、世界の「ルール」「秩序」をつくることです。

(写真:加藤 康)
(写真:加藤 康)

 IPEFは強力な存在とは言いかねます。米国の企画力が弱く、交渉参加国がなかなか集まりませんでした。バイデン政権は「貿易一括交渉権(TPA)」を有していないので、他の国は交渉に乗りづらい面があります。さらに米国市場へのアクセスというアメもない。日本がてこ入れし、ようやく13カ国が集まりました。太平洋地域全体を統べる自由貿易体制「アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)」の母体となる力はないでしょう。

 とはいえ、ソフト・ロー、すなわち緩やかな規範をつくる力はあると評価します。そして、IPEFが対象とするテーマと、経済版2プラス2が共同声明で取り上げた項目を比べると、かなりダブっているのです。

IPEFの4本柱は(1)公平で強じん性のある貿易、(2)サプライチェーンの強じん性、(3)インフラ、脱炭素化、クリーンエネルギー、(4)税、反腐敗。(1)(2)(3)は、経済版2プラス2の共同声明も言及しています。

佐橋氏:両者はリンクしているものとみられます。日米が軸となって、IPEFの協議をリードし、高いレベルのルールをつくり上げていく絵を描いているのでしょう。米国が単独で進めると、他の国がついてこられないルールになりかねません。さらに、IPEFで定めたルールを世界のルールに引き上げていく。デジタル貿易はその対象の1つです。

経済版2プラス2の共同声明の中に、「四閣僚は、日米経済政策協議委員会や、G7、APEC、インド太平洋経済枠組み(IPEF)等の他のプラットフォームを通じて、このビジョンを推進していく」とあります。これは、世界のルールをつくっていく、という決意表明なのですね。

佐橋氏:おっしゃる通りです。経済安全保障においてルールメーキングは核を成します。

 経済安全保障というと、日本では「守り」の側面ばかりが強調されます。それゆえサプライチェーンの強じん化や、技術流出の防止にスポットライトが当てられる。しかし、日米の政策担当者が力を入れているのはルールメーキングです。

 中国は、自国の主張にかなったルールを広めようとしています。例えば、習近平(シー・ジンピン)国家主席は「グローバル開発イニシアチブ」「グローバル安全保障イニシアチブ」という用語を頻繁に用いるようになりました。その背景にある考えは民主主義の価値や市民の自由と矛盾します。経済やビジネスにもネガティブな影響を及ぼします。例えば、西側のIT(情報技術)企業が中国市場に参入できなかったりします。

 中国が提唱するこうした言葉の力に対抗し、より質の高いルールを組み上げ、多くの国の賛同を得る。経済安全保障の主戦場はここです。

共同声明にある以下の2文は、中国が提唱するルールに対抗する意図を示しているように読めます。「四閣僚は、世界の二大民主主義経済としての日米両国は、民主主義が繁栄、安定及び安全保障のための最良のモデルを提示するということを実証できるとの見解を共有した」「四閣僚は、不公正、反競争的、非市場的な政策及び慣行の弊害から、労働者、企業、投資家を守る方法について議論した」

佐橋氏:経済版2プラス2の共同声明は「レベル・プレイング・フィールド」にも言及しています。これもルールづくり重視の一環です。西側企業が労働者の権利や環境に配慮する厳しいルールの下でビジネスをしているのに、中国企業がこれらに意を用いることなく事業を展開し、より大きな利益を上げるようでは困ります。

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