岸田政権は「防衛力を5年以内に抜本的に強化する」方針。そのために防衛費も「相当な増額を確保する」。ただし財源を確保する手段は明らかでない。その選択肢と経済への影響を考える。5兆円の増額を有効活用するカギを握るのは国内防衛産業だ。みずほ証券の小林俊介チーフエコノミストに聞いた。

(聞き手:森 永輔)

岸田文雄首相(右端)はG7サミットにおいて、防衛費の相当な増額を確保するとの決意を明らかにした(写真:picture alliance/アフロ)
岸田文雄首相(右端)はG7サミットにおいて、防衛費の相当な増額を確保するとの決意を明らかにした(写真:picture alliance/アフロ)

防衛費の増額が既定路線となってきました。岸田文雄首相が「防衛費の相当な増額を確保する」と発言。自民党は先の参院選で「NATO(北大西洋条約機構)諸国の国防予算の対GDP(国内総生産)比目標(2%以上)も念頭に、真に必要な防衛関係費を積み上げ、来年度から5年以内に、防衛力の抜本的強化に必要な予算水準の達成を目指」すと公約しました。

 防衛費をGDP比2%とするためには、約5兆円の予算を積み増す必要があります。この財源を賄う手段にはいかなる選択肢があるのか、それぞれの選択肢はマクロ経済にどのような影響を与えるのか、について伺います。防衛費以外の歳出を節約して防衛費に回す選択肢についても考えます。

 まず財源を増やす方法について。国債のさらなる発行と増税が考えられます。

国債を永続的に発行し続けることはできるか

小林俊介・みずほ証券チーフエコノミスト(以下、小林氏):まず国債を発行して賄うケースを考えてみましょう。

 このアイデアが存在することは理解しています。しかし、防衛費の増額は単発の支出ではなく、今後長きにわたって継続するものです。日本の財政の現状を鑑みて、長期にわたって国債を発行し続けることが可能なのか。この点を議論しなければなりません。

小林俊介(こばやし・しゅんすけ)
小林俊介(こばやし・しゅんすけ)
みずほ証券エクイティ調査部チーフエコノミスト 専門は日本経済・世界経済・金融市場分析。2007年、東京大学経済学部を卒業し、大和総研に入社。2013年に米コロンビア大学および英ロンドンスクールオブエコノミクスで修士号を取得。日本経済・世界経済担当シニアエコノミストを経て、2020年8月より現職。(写真:加藤 康)

 財政拡張派の人々は、1000兆円の国債を現にファイナンスできていることを根拠に、さらなる拡張を容認します。「ファイナンスできている」との現実は事実として受け止めるべきです。と同時に、なぜファイナンスできているのかを考える必要があります。

 理由の第1は、日本に多額の貯蓄があることです。対政府という視点で見ると、民の側に貯蓄があります。日本全体で見れば、400兆円に上る対外純資産が存在します。これが第2の理由。そして第3の理由は、国債の保有においてホームバイアスが利いていることです。日本企業や日本の富裕層が国債の多くを保有しており、外国資本に頼る必要が今のところありません。

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