天安門広場で演説する習近平国家主席(写真:新華社/アフロ)
天安門広場で演説する習近平国家主席(写真:新華社/アフロ)

(「中国共産党100年、習近平演説に表れる苦悩」も併せてお読みください)

習近平国家主席は中国共産党創立100年を祝う演説で、2049年に向けて“米国に追いつき追い越す意向”を改めて示した。しかし、その政策は矛盾をはらむ。さらなる経済発展を実現するには市場経済の深化が必要だが、共産党によるコントロールを強化するばかりだ。海軍力の増強や台湾への態度硬化は、西側諸国の懸念を高めている。

(聞き手:森 永輔)

習近平(シー・ジンピン)国家主席は演説において、次の目標に進むことを改めて宣言しました。中華人民共和国建国100年に当たる2049年に向けて、「社会主義現代化強国」となる。同氏が描く社会主義現代化強国とは、どのようなものなのでしょうか。

興梠一郎・神田外語大学教授(以下、興梠):習近平国家主席はこれまでに「総合国力で世界の先頭に立つ」と発言しています。軍事力、経済力、外交力のトータルで米国に追いつき、追い越すという意味と解釈できる。「米国」と言及しているわけではありませんが、現在の「先頭」は米国ですから。

建国100年に向けて、米国に追いつき追い越す

 中国は明らかに米国を意識しています。なので、米国が手を付けたものは何であれ取り組んでいます。例えば宇宙。独自の宇宙ステーション「天空」の中核をなす「天和」を4月に打ち上げたのは記憶に新しいところです。

<span class="fontBold">興梠一郎(こうろぎ・いちろう)</span><br>神田外語大学教授。専門は現代中国論。1959年生まれ。九州大学経済学部卒業後、三菱商事中国チームにて勤務。カリフォルニア大学バークレー校修士課程修了、東京外国語大学大学院修士課程修了。外務省専門調査員(香港総領事館)、外務省国際情報局分析第二課専門分析員、参議院第一特別調査室客員調査員を歴任。2006年から現職。 著書に『中国 目覚めた民衆-習近平体制と日中関係のゆくえ』など。(写真:加藤 康、以下同)
興梠一郎(こうろぎ・いちろう)
神田外語大学教授。専門は現代中国論。1959年生まれ。九州大学経済学部卒業後、三菱商事中国チームにて勤務。カリフォルニア大学バークレー校修士課程修了、東京外国語大学大学院修士課程修了。外務省専門調査員(香港総領事館)、外務省国際情報局分析第二課専門分析員、参議院第一特別調査室客員調査員を歴任。2006年から現職。 著書に『中国 目覚めた民衆-習近平体制と日中関係のゆくえ』など。(写真:加藤 康、以下同)

もう十分、強国になっていると思いますが。

興梠:彼らにとっては十分ではないのでしょう。例えば中国の1人当たりGDPは約1万ドルで世界ランキング60位程度です。決して米国並みとは言えません。貧富の格差も非常に激しい状態にあります。

 経済の構造も国有企業が中心をなしており、市場経済化していません。低賃金の労働力を使った加工貿易が競争力を持っていた時代は国有企業中心でも問題ありませんでしたが、もうそうはいきません。

 国有企業が市場を寡占する状態は、競争が生まれず、無駄が生じています。過剰生産力の問題を抱える企業をみれば、いずれも国有企業です。

 民間企業を中心とする成長にシフトすることが望まれるものの、これまでの国有企業重視の影響で、民間企業に資金が流れる仕組みが十分ではありません。金融機関は依然として国有企業を主たる融資先と考えています。外国企業との合弁話もみな国有企業にいってしまう。このため、民間企業の投資力が伸びない状態にあります。

しかし、習近平国家主席は依然として国有企業の強化に注力しているようにみえます。

興梠:そうなのです。そこが、矛盾をはらんでいる。習近平政権は独自の経済モデルで先頭に立とうとしているからです。

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