ライシ政権に立ち塞がる経済の再生
そうすると、8月から始まるライシ政権の運営は難しくなりそうですね。
坂梨:おっしゃる通りです。その成否は経済を上向かせることができるかどうかにかかっています。ライシ師は選挙戦において、経済が悪いのは、ハッサン・ロウハニ大統領をトップとする現政権に力がなく、適切にマネジメントすることができなかったのが原因だと厳しく攻撃してきました。
イランの経済が苦しいのは、ドナルド・トランプ米大統領(当時)が2018年5月、イラン核合意から一方的に離脱し、イランに対して経済制裁を復活させたからではないのですか。原油の輸出を妨げる措置は産油国であるイランにとって非常に厳しい措置です。
坂梨:確かにその通りです。制裁前、原油関連はイランのGDP(国内総生産)のおよそ3割を占めており、これが大打撃を受けました。日々の輸出量は制裁復活により250万バレルから30万バレル未満へと激減したのです。
ただ、この制裁復活への対応において、ロウハニ政権の政策が混乱を拡大させた面があるのも確かです。例えば、歳入の大幅な減少を補うべく2019年11月に、ガソリン価格を引き上げました。イランは産油国ですが、ガソリンは一部輸入しており、補助金を支給することで安く国民に提供していました。このガソリン値上げに国民は反発し、反政府デモが全国で発生したのです。ロウハニ政権としては、これを取り締まらざるを得ません。その過程で死者も出ました。国民の間から「革命は貧しい者のためではなかったのか。その理想はどこに行った」という怒りの声が上がりました。
2つの為替レートを容認したことも問題を生じさせました。生活必需品を購入するためのドルは1ドル=4万2000イランリアルという安いレート(優遇レート)で入手できる一方、市場レートは一時、1ドル=32万イランリアルまでイランリアルが下落しました。
こうした環境は不公正な通貨取引を生じさせます。体制の有力者の中には、安いドルを入手し、それを高いレートでイランリアルに換金することで差益を懐にしようとする者も現れました。
もちろん、ロウハニ政権でなくても、米国による制裁復活に適切に対処することはできなかったと思います。批判するだけなら容易にできます。
ライシ師は司法畑を歩んできた経歴の人物で、現在は司法府代表の地位にあります。経済運営にたけているとは思えません。
坂梨:その通りです。選挙戦の過程で、候補者が登場するテレビ討論会が開かれました。初回のテーマは経済。しかし、実質的な議論はなされませんでした。具体的な話ができたのは、穏健派の候補の一人、ヘンマティ前中央銀行総裁だけでした。
例えば「インフレをいかに抑制していくのか」という問に対して、ライシ師をはじめとする他の候補は「力を合わせれば乗り越えられる」というたぐいの回答しかすることができませんでした。よって、ライシ政権は良い経済アドバイザーをいかに政権に取り込むかが重要になります。ただし、大統領自身が経済の専門家でないのは、ライシ師に限りません。現在のロウハニ大統領も、その前のアフマディネジャド大統領(当時)も経済通ではありませんでした。
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