
イランで6月18日、大統領選挙が実施され、保守強硬派のエブラヒム・ライシ師が勝利した。有力候補は事実上1人しかおらず国民は反発。投票率は50%を割り込んだ。ハメネイ師を最高指導者とする現体制が、そこまでしてライシ師を次期大統領にしたいのはなぜなのか。イラン情勢に詳しい坂梨 祥・日本エネルギー経済研究所 中東研究センター副センター長に聞いた。同氏は、反米保守強硬とされるライシ師の政権になっても、イラン核合意をめぐる米国との妥協はあり得ると見る。その背景にあるものとは。
(聞き手:森 永輔)
イランで6月18日、大統領選挙が実施され、保守強硬派のエブラヒム・ライシ師が勝利しました。坂梨さんは、今回のイラン大統領選のどこに注目しましたか。
坂梨 祥(以下、坂梨):やはり投票率に注目しました。最高指導者ハメネイ師が率いる現体制は投票率を、政権の正統性の指標として重視してきたからです。

日本エネルギー経済研究所 中東研究センター副センター長・研究理事
2005年、東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程単位取得退学。2005年に日本エネルギー経済研究所入所し、中東研究センターの研究員を務める。2019年から現職。この間、Gulf Research Center客員研究員や在イラン日本大使館専門調査員を歴任(写真:新関雅士、以下同)
イランの大統領選は候補者の資格審査があり、体制が好ましくないと判断する人物は候補からはずすことができます。よって、完全に民主的な選挙でありません。しかし、それでも体制側は、国民が一票を投じようと思える複数の候補を並べ、国民の側も投票することに意義を感じてきました。このため、前回2017年の選挙でも、前々回2013年の選挙でも、投票率は70%を超えていました。
ところが今回の投票率は48.8%。50%を割り込むとともに、大統領選挙としては過去最低を記録しました。
坂梨:そうですね。体制側が、候補者として認めたのは立候補した600人ほどのうちわずか7人。今回当選したライシ師ら保守強硬派5人と、穏健派2人です。しかし、有力な候補はライシ師一人しかいませんでした。ライシ師を確実に勝たせる環境をつくったわけです。
このため、国民の半数が投票所に足を運びませんでした。「こんなのは選挙ではない」と反発したとみられます。
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