
バイデン米大統領とロシアのプーチン大統領が6月16日、首脳会談に臨んだ。 ロシア政治に詳しい小泉悠・東京大学先端科学技術研究センター特任助教は、 米ロ関係の限界が明らかになったと評価する。 ただし、その中でも軍備管理の協議を始めることを決めた。 「レーガン米大統領(当時)とゴルバチョフ書記長(同)が核兵器の軍拡競争はやめようと両国が歩み寄った、あの時に戻ろうというニュアンス」(小泉氏)も醸し出している。 今後の注目点はウクライナをめぐる両国の動向だ。そして、米ロ関係は中ロ関係にも影響を及ぼす。
(聞き手:森 永輔)
米国のジョー・バイデン大統領とロシアのウラジーミル・プーチン大統領による首脳会談が6月16日に開かれました。小泉さんは、これのどこに注目しましたか。
小泉 悠・東京大学特任助教(以下、小泉):大きく2つの点に注目しました。1つは米ロ関係の限界が改めて明らかになったこと。もう1つは、限界にきているものの、妥協を見いだそうと両国が努力する姿勢を示した点です。

東京大学先端科学技術研究センター特任助教。専門はロシアの軍事・安全保障政策。1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科を修了。外務省国際情報統括官組織の専門分析員などを経て現職。近著に『「帝国」ロシアの地政学 「勢力圏」で読むユーラシア戦略』『現代ロシアの軍事戦略』など。(写真: 加藤康、以下同)
限界は、米ロの関係を「史上最悪」と呼ばれるレベルに悪化させている根本原因である人権とウクライナについて、プーチン大統領が姿勢を改める気がないことを指します。今回も折り合いがつきませんでした。
まず人権について、プーチン大統領は国内において権威主義体制をあきらめる気がないことを示しました。反体制派指導者のアレクセイ・ナワリヌイ氏に対する厳しい発言を続けています。クリミア半島問題についても同様で、方針を改める気がありません。ウクライナをめぐる停戦合意である「第2次ミンスク合意」が機能しないのは「ウクライナが合意を履行しないせいだ」と言い続けています。米ロ関係は今後も緊張が続くと思われます。
他方、こうした緊張を緩和する要素はないのか。その一端がいくつか見えました。1つは、バイデン大統領が5月、ロシアとドイツを結ぶガスパイプライン「ノルドストリーム2」の建設に当たっているノルドストリーム2・AGと同社のCEOに対する制裁を解除したことです。これで同パイプラインはドイツまでつながることになりそうです。すぐに営業開始にこぎ着けるかどうかはまだ分かりませんが。バイデン大統領は大きな妥協をしたと評価します。
第2は、軍備管理の話が前評判通り浮上したことです。核兵器も対象とする 軍備管理とリスク低減を目的とする、「戦略的安定対話(an integrated bilateral Strategic Stability Dialogue)」を近く始めることで合意しました。
プーチン大統領に同行したスタッフの顔ぶれを見ると、核軍縮に本気で取り組む姿勢が読み取れます。リャプコフ外務次官は外務省でずっと核軍縮を担当してきた経歴の人物。軍の制服組トップであるゲラシモフ参謀総長の顔もありました。今回、米国に戻ることが決まったアントノフ駐米大使も拡大会合の場にいました。同氏も核軍縮の専門家で、国防次官を務めた経験もあります。核軍縮の具体的な話になっても、その場で対応できる状態をつくっていたわけです。
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